服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第84回
フォーマルシャツのダブル・カフ

今週は、日ごろご愛読下さっている
読者の方々からいただきましたご質問にお答えいたします。

今回は、藤井幸一郎さんからいただきましたご質問
「なぜフォーマルシャツの袖はダブルカフなのか」
にお答えいたします。

フォーマル・シャツのダブル・カフについてお話しましょう。
もっとも私たちは“ドレス・シャツ”、
“フレンチ・カフ”ということが多いのですが。

ご指摘の通り、昔のワイシャツの袖口は
ダブル・カフではなくシングル・カフでした。
一重の袖口にカフ・リンクスを留めたのです。
これは当時の糊づけと関係があります。
襟も袖口も今からは想像できないほど、
厚く、堅く糊をつけたのです。

一枚の袖にでも充分に堅いので、
二重(ふたえ)に折返す必要などなかったわけです。
と同時に、短い期間ではありますが、
襟と同様、袖口も着脱可能になっていました。
さらに古い時代には“カフ・ストリング”と言って、
細い紐を結ぶことによって袖口を留めていたのです。

それはともかく、いったい何時頃から
ワイシャツの袖口を折返すようになったかといえば、
だいたい1850年頃以降のことだと考えられています。
これはご想像通り、糊づけの変化と関係があります。

厚く糊づけすると窮屈だし、こすれて痛いので、
もっと薄く、楽に着る動きが出てくるのです。
糊が薄くなると、一枚では柔く、形が不安定なので、
二重(ふたえ)に折返す袖口が登場する。
これを“フレンチ・カフ”と呼んだのです。
この“フレンチ・カフ”という表現には、
わずかに略式という意味がこめられています。
それを裏返すなら、モダンで、
粋なスタイルということにもなります。

タキシードは燕尾服にくらべて略式だと考えるので、
フレンチ・カフが最適なのです。
つまり正式に燕尾服(イヴニング・コート)を着る場合には、
当然、シングル・カフのドレスシャツが
ふさわしいということになります。


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2002年12月16日(月)

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