服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第229回
俳句はお好きですか(1)

俳句はお好きですか。
むかしは発句(ほっく)、俳諧、いまは俳句。
わずか五七五、世界でもっとも短い詩でもあります。
たとえば「古池や蛙飛びこむ水の音」(芭蕉)
はよく知られた名句でしょう。

俳句なんて古い、というのは簡単です。
あるいは「なんだか難しそうだね」という人もいるでしょう。
でも私は俳句は頭の体操にはとても良いと考えています。
たまたま菜の花を目にして、頭の中で言葉を転がしながら、
右手で指折り数えるのは、効果的な知的運動です。

私たちは俳句を売りものにするわけではありませんから、
上手下手はそれほど関係ない。
むしろひとつの句を練る過程をどう苦しむか、
どう楽しむかが大切なのです。
自分の気持をいかに正直に、
いかに正確に五七五のなかに織込むか、
というゲームだと私は思います。
つまりどのくらい自分らしい句ができるかを
問題にすれば良いのではないでしょうか。

実際に俳句をはじめてみると、
いろいろ勉強になります。
とりあえず歳時記を開いてみると、
当然「菜の花」が昔の季語だということにも
あらためて気づくでしょう。
同じように「蛙」(かわず)も春の季語で、
さっきの芭蕉の名句は春の情景だと分ります。

カエルをなんで「かわず」と言うのか。
もちろんいまの時代ならカエルでも良いのですが
江戸の昔には「かわず」と言った。
なるべく昔を大切にしよう、という考え方があるのです。
言葉におけるアンティークごっこという一面もあるでしょう。
このアンティークごっこが楽しいと思えば
それなりに遊んでみればよろしい。
けれどもそんなのつまらない、と思うのなら
すべて現代語で俳句を詠んでもいいのです。

あくまでも自分の気持を大切に。
ただ、俳句でも詠んでみようか、
という気持になることで、
突然人の俳句がよく分るようになる。
「古池や蛙飛びこむ水の音」。
あっそうか。
まったくの静かさを蛙の音が被った一瞬の情景なんだ、
ということに。


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2003年5月10日(土)

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