服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第231回
俳句はお好きですか(3)

吟行というのを知っていますか。
もちろん「ぎんこう」と読みます。
句を詠むための旅のことです。
1人で行くこともあれば、2、3人、
あるいはもっと大人数で行くこともあります。
少しでも俳句に親しむと、
たいていの人はこの「吟行」をやってみたくなるものです。

それは旅に出ると、
新鮮なものが目に入り耳に入り、
句が生まれるだろうと思うからです。
また最初から句をつくろうと意識することもあって、
事実、句は生まれるものなのです。

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」(芭蕉)
これまたあまりにも有名な句ですね。
これは芭蕉が山形の立石寺という寺の近くで詠んだ句。
つまり吟行から生まれた句とも言えるでしょう。
『奥の細道』に代表されるように、
芭蕉の句の多くが、旅の途中に生まれています。
芭蕉といえば句であり旅であり、
こんなところからも今なお「吟行」が好まれるのでしょう。

近くのパン屋へ行って、
評判のブリオッシュをひとつ買って、帰ってくるのも
「旅」の一種かも知れません。
なにも命がけで東北まで歩いてゆくだけが旅ではないのです。
「なにか一句詠んでみよう」と思いながら歩いてみるのが、
「吟行」なのです。
誰に迷惑かけるでもなく、大金が必要なわけでもなく、
句作という趣味、もしくはアートが完成するのですから、
こんなに良いことはまず他にはないでしょう。
そうそう、歩くのは身体にも良いことですからね。

吟行のためのひとつのヒントは、
あらかじめ季語を用意しておくことです。
たとえば「蝉」なら夏の季語ですね。
季節に合わせ、場所に合わせて
なにかひとつ季語を設定しておく。
足が疲れるほど歩いたけれど、
結局蝉の声は聴けなかったなあ、
ということでも良いのです。

そしてもうひとつ。
あまり数を欲張らないで、
自分らしい句がひとつでも出来れば良いと考えることです。
芭蕉だって、練りに練って
ひとつの句に仕上げているのですから。


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2003年5月12日(月)

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