服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第254回
古本屋のエチケット

古本屋でのエチケットを知っていますか。
なかにはまさか、という顔をする人がいるかも知れませんね。
でも、古本屋にもちゃんとエチケットがあります。

たとえばおととい、
私は「カウ・ブックス」へ行って、1冊本を買った。
河盛好蔵 訳編『ふらんす小咄大全』(筑摩書房)。
昭和37年の本で、1500円という値段。
値段は、古本の場合、まず例外なく最後のページ、
右上に鉛筆などで記入してあります。
これを見て値段を知るわけです。

ところが『ふらんす小咄大全』は箱入りで、
箱から出さないと、ページが開けない。
で、箱から本を出した。
箱入り本の扱いは、必ず両手で左右の端を持って、
軽くふり下すようにして出します。
もちろん下には本が落ちても良いように
台などの上でこのしぐさをやるわけです。

でも、なかにはこの箱入本の扱いを知らない人がいる。
左手にむんずとつかんでおいて
右の2本の指で引張り出そうとする。
これは無理です。
箱をいためるもとです。
つまりエチケット違反ということになります。

30年、40年、50年、時代を経ている本ほど
紙質の劣化が進んでいます。
思いのほか弱いのです。
大切に扱う必要があります。
古本屋用語に
「白っぽい本」「黒っぽい本」というのがあります。
前者は比較的年代の新しい本で、
後者は年代の古い本のことです。
そんなわけで「黒っぽい本」ほど
丁寧に扱ってやるべきでしょう。

古本の理想とは、
新刊時の姿をそのまま保っていることです。
もしそんな本があれば、大変良い値がつけられます。
が、客の扱いによって少しづつそこなわれると、
どうしても値段が通りにくくなります。
だから客としてもエチケットが必要になってくるのです。

私などは棚に行儀よく本が並んでいるのが好きです。
少しでも乱れていると、
人ごとながらつい手が出て、直してしまうほど。
もっともこれはエチケットではなく、
おせっかいというものでしょう。


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2003年6月4日(水)

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