服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第284回
夏の夜の夢

鯉口シャツというのを知っていますか。
恥をしのんで申しますが、
私は知りませんでした。
いや正確に言えば、
シャツの存在自体は知っていましたが、
「鯉口シャツ」という名前は知りませんでした。

ひと言で説明すると、
祭に着る和式シャツなのです。
衿なしで、七分袖の、ねじり鉢巻が似合うシャツ。
生地は木綿で、
たいていは江戸小紋がプリントされています。
専門店の人はたしか
鯉口(こいくち)シャツと呼んでいましたが、
辞書で調べると、鯉口(こいぐち)と読むのだそうです。

今はふつう「鯉口シャツ」と呼ばれているのですが、
それ以前には「鯉口袖」という名前であったらしい。
水仕事などに向くように筒袖にして、
しかもそれを短くして、
なるべく働きやすいように考えられた服装だったのです。
いつ、だれが考えたのかは知りませんが、
昔の日本で生れた労働着であったことは
間違いないようです。
そしてその仕事着がいつの間にか、
祭の衣裳とされるようになったのでしょう。

私は鯉口シャツを前にしばし腕組みをして、
結局、1枚買うことにしました。
いや、祭に行こうというのではなくて、
これは真夏のホーム・ウェアになるのではないか、
と考えたのです。1枚、4千円也。
コットンですから汗をかいたら、
家庭で洗って、何度でも着ることができます。
同じ柄で股引もありましたが、
これは必要ないでしょう。
今年の夏は、鯉口だ。

鯉口はもともと刀のさやの口のことです。
よく「鯉口を切る」なんて言いますね。
すぐ刀が抜けるように、刀を少し抜いておくことです。
あのさやの口の形が、
鯉が口を開けた様子に似ているところから、鯉口。

鯉口シャツも、衿ぐりの形が
鯉の口に似ているところから、
その名前で呼ばれるのではないでしょうか。
鯉口シャツは日本文化だ、とまでは言いませんが、
これは外国でも人気が出るのではないでしょうか。
私がこれを大量に輸出して、流行らせて、
大金持ちになります、きっと。


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2003年7月4日(金)

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