服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第288回
絵をはじめてみませんか

絵を描いたことがありますか。
私は絵を描いたことはありません。
というよりも、絵は小学生以来、
私の劣等感のひとつになっていました。
それがふっと絵を描いてみたくなったのです。
不思議なものですね。

ひとつのきっかけは、カメラ。
カメラが重く感じられるようになったのです。
私はずっと古いニコンF3を使っているのですが、重い。
体力の衰えかも知れません。
旅先で道端のあじさいを撮ろうとしたら、
それをスケッチしている人を見つけたのです。

鉛筆とスケッチ・ブックさえあればいいのですから、
カメラに較べてはるかに軽い。
ああ、いいなあと思ったのです。
軽さを理由にするなんて、不純な動機でしょうか。

写真を写すのも、スケッチをするのも、
その根本はどうも同じであるようなのです。
まず構図を決めて、その中心をどこに置くかを考える。
そして絵の場合、よく観察しながら
中心からまず描きはじめるのだそうです。

そしてあらかたスケッチが終ると、
今度はその上に和紙を置いて、トレースしてゆく。
トレースの後、彩色して完成。
ということは旅先でスケッチと、
後での記憶のために簡単に色鉛筆で彩色をしておく。
和紙でトレースするのは、
家に帰ってからの作業なのです。

―なんだかさも詳しそうな話をしていますが、
実はすべてうけうりです。
本屋で『植物画プロの裏ワザ』
(小岸富士男、講談社刊)を見つけて読むと、これが面白い。
私にだってすぐに描けそうな気持にしてくれるではありませんか。
スケッチ・ブックはマルマンのB5。
和紙は「紙舗直(しほなお)」
(TEL:3944-4470)で買うと良い、
などとかゆい所に手がとどく親切さなのです。

よし、絵を描いてみるぞ。
最初は下手でもいいのです。
いや、個性的であるほど良い。
私はまったくの趣味として、
自分のために描くのですから。
展覧会に出すわけでも、
ましてそれを売ろうというのでもない。
自由に描いて良いのです。
今になって絵を描こうと思いついた自分自身を
ほめてやりたい気分になっています。


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2003年7月8日(火)

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