服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第292回
きれいなきれいな納涼法

夜濯という言葉があるのを知っていますか。
夜濯(よすすぎ)と読んで、
れっきとした日本語なのです。
夏、昼に洗濯をすると暑いので、
夜涼しくなってから、その日の汚れものを洗う。
これが夜濯で、朝にはもう乾いていることがあります。

その日に汚れたものをその日に洗うのは、
汚れが落ちやすい。
それに夜、水を使って手洗いすると、
涼しくなってくる。
これもまたむかしの日本人の智恵でしょう。

今、洗濯といえば洗濯機で、
手洗いをする機会は減っています。
ふたを開けて洗濯物を入れ、
スイッチを押しておくと、
やがて乾燥までしてくれるものがあります。
でも、手洗いもなかなか捨てたものではありません。

たとえば靴下なんかもそうですね。
洗濯機では毛玉になる場合でも、
手洗いなら毛玉にはなりません。
それに汚れた箇所を中心に洗うことができますから、
結局は傷みが少なく永保ちしてくれるのです。

また手洗いをすると覚悟を決めてしまえば、
今まで洗濯機では洗えなかったものでも、
自分で洗えることに気づくのです。
シルクのシャツなんかもそうでしょう。
洗濯機に入れる勇気はない。
ついクリーニング店にまかせることになります。
あるいはサマー・スェーターやカーディガン。
白いコットンのカーディガンなども、
手洗いできれいになります。

ただしニット類は干す時に
多少の注意が必要になってきますが。
ハンガーに掛けると、
重みで伸びることがあるからです。
バスタオルの上などに水平に置いた状態で乾かすと、
形が崩れません。
伸びた袖口なども、洗った後に細く縮めておくと、
元通りにすっきりと仕上ります。

麻のシャツの、汗だけを洗う場合には、
香りの良い化粧せっけんで洗う。
するとかなり濯いだ後でも、乾いた後でも、
気持の良い移り香を楽しむことができるでしょう。

自分の洗濯物がきれいになって、
しかも自然に涼しさを得られるなんて、
一挙両得ではありませんか。


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2003年7月12日(土)

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