服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第320回
ファッションの経済学

ふだんいくら位のスーツを買っていますか。
ごくふつうに洋服屋でスーツを1着新調すれば、
20万円ほどでしょうか。
面白いことに輸入ブランドのプレタ・ポルテも
ほぼ同じくらいの値段なのです。
一方、上手に探せば
2万円でもれっきとしたスーツがあります。
20万円と2万円、いったいどこがどう違うのか。
これは単純に品質の違いで片づけることは出来ません。
量産と量販を徹底的に行えばかなり安くできます。
逆に、1点づつ丁寧に仕上げて、
少量販売すればかぎりなく高くなります。

でも、私たちはなにも
洋服屋をはじめようというわけではありません。
大切なことは、このような多様な価格帯のなかで、
どの位の値段を選ぶべきか、という点でしょう。
たとえば私自身は2万円スーツを
それなりに着る自信を持っています。
2万円だからといって
スーツの機能に問題があるわけではないのです。
結局、私は面(つら)の皮が厚いということなのでしょう。
2万円だから臆(おく)する、ということがないのです。
良いも悪いも飲み込んで、平然と着こなす。

つまりスーツの値段や品質よりも、
それを着る側の心が卑屈になるかどうか、
という問題なのです。
もし20万円のスーツに袖を通さないと不安で仕方がない、
となればそれは不幸な方でしょう。

服が似合う、服が様(さま)になる、
これは服と人がひとつに解け合った時に起るのです。
値段が高い安いで一喜一憂している状態では
けっして服は味方になってくれません。
理想を言えば、値段に関係なく
楽々と自分のものにしてしまう強引さが
おしゃれには必要なのです。

また一般論としては次のように言えるでしょう。
そのスーツをいったい何年位(何回位)
着るだろうか、と考えてみる。
もし20年も着られそうなら、
仮に20万円でもそう高いわけでもない。
一方、2万円でも1シーズンで終りなら、
高いものになってしまいます。
結局、より長く着るなら多少の投資をし、
短い着用なら安いものを上手に探す、
ということになるでしょうか。


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2003年8月18日(月)

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