服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第339回
自分のジーンズを育ててみよう

バイク専用ジーンズというのを知っていますか。
バイクに乗るためのジーンズ。
基本的には通常ジーンズと同じですが、
決定的なのはフォグ・ポケット
(コイン・ポケット)の位置が違う。
この小さなポケットはまず例外なく右側ですが、
バイク用は左側に付いているのです。
これはバイクを押して動かす時、
ポケットの鋲で
車体を傷つけないようにとの配慮からなのです。

これは一例ですが、
フォブ・ウォッチが付いているジーンズのことを
ファイブ・ポケットと呼んで、
伝統的なジーンズの条件とされるのです。
なにを今さらとおっしゃるかも知れませんが、
私はこの伝統ジーンズが大好きなのです。

ところが現在は新型ジーンズが主流であるらしくて、
伝統ジーンズを探すのに苦労するほどです。
私の好みが古くさいのでしょうか。
私の目からすれば
どうも「ジーンズ風」の代物であるように思えるのです。

今こそ、ファイブ・ポケット・ジーンズを、
と叫びたいほどです。
いや、それ以前に14オンスの、目が詰んで、
固い生地のジーンズが欲しい。
もし、新たにジーンズを求めようとするなら、
まず14オンスであることを確認して下さい。
次に手でさわって、厚く、固いほどよろしい。
こんなブリキのようなパンツが穿けるか、
と思うようなものでありたいのです。

伝統ジーンズはたしかに最初は穿きにくいのです。
穿いて洗って、穿いて洗って・・・。
これを繰返すうちにゆっくりと自分に合う、
自分だけのジーンズに育ってゆくのです。
ジーンズを上手に穿くということは、
自分だけの1本を自分で育てるところにあるのです。
ふつうのパンツは買った時から
ゆっくり劣化がはじまるのですが、
ジーンズはまったく逆なのです。
穿けば穿くほど成長して、
自分らしい表情になってゆく。
この成長をみるのが楽しい。
私はいくつになってもジーンズの似合う男でありたい。
そしてそのための秘訣は、
このジーンズを育てるところにあるのです。


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2003年9月6日(土)

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