服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第346回
ブランドは文化のサポートなのです

馬車に乗ったことがありますか。
今は自動車の時代で、
馬車は昔話になってしまいました。
19世紀以前は人は徒歩で、馬で移動した。
貴族はたいてい馬車を利用したことは
ご存じの通りです。
2頭立て、4頭立て、6頭立て・・・。
馬の数がふえるほど、
立派な馬車とされたものです。

もちろん馬車そのものにもずいぶんと凝ったわけです。
むかしイギリスに
ボオ・ブランメルという洒落者がいました。
この人がフランスへ逃げることになり、
イギリスの港で彼の馬車を売る。
これが今の数億円で売れたそうです。
ブランメル自身は数千万円で作らせたのですが。

ブランメル自身貴族ではありませんでしたが、
皇太子のおしゃれの先生で、
社交界のリーダーであった人物。
彼が1から10まで注文をつけて、
豪華な、趣味の良い馬車を作らせたわけです。
この時の常識として、時と金は問わない。
いつまでに出来るか、とか、
いくらかかるか、とは言わないのです。
馬車職人が1年がかりで仕上げて、
8000万円といえば8000万円支払うのです。
これは昔の、日本の大名などについても
同じことが言えたでしょう。

だからこそ、さまざまな職人技が、
美術工芸が発展したわけです。
文化のパトロネージと言い換えても良いでしょう。

もう少し身近なところで、
自転車で考えてみましょう。
自分の好みに合った自転車を
注文で作る人がいます。
だいたい40万円ほどかかるそうです。
このような自転車愛好家がもっと多くなれば、
まるで美術品のような自転車が、
自転車作家がふえることでしょう。
これもまた文化のパトロネージの一種かも知れませんね。

単に、今のブランド・ブームが良いか悪いかと
決めつけることはできません。
ただ、ブランド・ブームの構図のなかにも、
この文化のパトロネージが含まれているはずです。
そして本当は、もっと大人たちが
それを支えるべきだと、私は思うのです。


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2003年9月13日(土)

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