服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第347回
私の銘品体験談

「バレクストラ」という鞄のメーカーを知っていますか。
イタリア製のブランドです。
もうかなり以前のことですが、
バレクストラのブリーフ・ケース(書類カバン)を
買ったことがあります。
美しいライト・ブラウンで、
30万円ほどしたでしょうか。
高いなあ、と思いました。
でも、結論を言えば買って良かったと思います。

ライト・ブラウンをはじめとして、
赤やグリーンなど、黒以外のブリーフ・ケースは
ちょっと難しいところがあります。
長く使っている間に、
どうしても把手の色だけが黒ずんでくるからです。
ところがそのバレクストラの鞄には
別に木製の把手が用意されています。
なに気なくそのウッド製の把手にしておいたところ、
まったく変色することがなかった。
今も現役として活躍しています。

あえて分りやすい一例をあげたのですが、
銘品とされるものは、よく研究すれば
必ず学ぶべき秘密があります。
これを裏返せば、学ぶべき秘密がないようでは
本当のブランドとは言えないのではないでしょうか。

さて、より具体的に「製品」と「銘品」は
いったいどこが違うのか。
ふつう「製品」は買って使っているうちに劣化します。
ところが「銘品」は使えば使うほど、年輪を重ねて、
味わいが深まるのです。
1年目よりも2年目のほうが、
さらには10年後のほうが価値が高くなるのです。
もし、使っているうちに値打が下がるようでは、
私はそれは「銘品」ではないと考えています。

そしてもうひとつ「銘品」の良い点は、
自分を高めてくれることです。
少なくとも「銘品」であるからこそ、
大切にしようと思う。
ワックスを塗り、オイルを注すことでしょう。
これがさらに長持ち、一生物となる一因でもあるのです。
また、「銘品」を持つことによっての
心地良い緊張感をも抜きにしては考えられません。
その「銘品」がふさわしい自分であるように
高めたい、と思う。
結局のところ「銘品」は「製品」よりも
お買得であるというのが私の考えなのです。


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2003年9月14日(日)

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