服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第352回
ペンダントは心の友です

ペンダントをつけたことがありますか。
首から下げるアクセサリーのことですね。
私も一応ペンダントを吊るしています。
でも、これはもうおしゃれというより、習慣です。
寝ても起きても、風呂に入るにも
これだけは着(つ)けています。
まあ一種のお守りみたいなものでしょう。

男のペンダントは原則として
素肌の上から着(つ)けるもので、
その意味ではもっともシークレットな
装身具と言えるのでしょう。
シャツを着ている以上、
誰にもその存在を知られることはないわけですから。
ポロ・シャツやスポーツ・シャツの場合には、
前ボタンを外したりすると、
ごくわずかチェーンがのぞくくらいのものでしょう。
けれども自分だけは、はっきりとその存在を意識できる。
ひそやかなアクセサリー、そうも言えるでしょう。

ペンダントのもうひとつの意味は、換金性。
たいていはゴールドかプラチナであるはずで、
いざという時には、
いつでもどこでも現金に換えることができる。
必ずしも平和ではなかった昔の、さまざまな国では、
生き抜くための智恵でもあったのです。
また戦場などでは、本人確認の認識票として
使われた歴史もあります。

ペンダントひとつとっても
いくつかの見方があることに気づきます。
おしゃれとは自意識の問題です。
言い換えれば、自分を、
もうひとりの自分がどのように意識するか、
見張るかということに尽きます。
「オレなんてどうでもいいや」と思った瞬間から、
人は限りなくだらしなくなってしまうものです。

ペンダント1本でも、
そこになにかの意味を見つけ、
意識するところから、おしゃれははじまるのです。
私は申(さる)歳ですから、
申(さる)のペンダント・トップを探したりもします。
このペンダントが、私がだらしなくならないように
見張ってくれるわけです。

まずはペンダントにはじまって、
指環、ブレスレットなどと
発展してゆく楽しさもあるでしょう。
男のアクセサリーもまた、心の友なのです。


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2003年9月19日(金)

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