服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第357回
なんと人間的なファッションであることよ

流行は繰返すと思いますか。
イギリスの服飾史家であった
ジェイムズ・レイヴァーという人が、
おおよそ次のようなことを言っています。

<<流行期よりも10年前=下品なもの。
 5年前=恥知らずのもの。
 1年前=向こう見ずのもの。
 ちょうど流行期になるとスマートなもの。
 そして1年後=みすぼらしいもの。
 10年後=ぞっとするもの。
 20年後=ばかげたもの。
 30年後=こっけいなもの。
 50年後=風変りなもの。
 70年後=魅力的なもの。
 100年後=ロマンティックなもの。
 150年後=ふたたび美しいもの。>>

この説を信じるなら、
たしかに流行は繰返すものなのでしょう。
たとえばリバイバル・ファッションという言葉も
あるではありませんか。

私自身の車の好みについてお話しましょう。
どうも私は古い自動車が好きなのです。
クラシック・カー、ビンテージ・カー。
実際にそれを所有して乗りまわすのは大散財ですが、
形としては美しいと思います。
それに較べて今のクルマは・・・。

この好みはおそらく幼少期に源があるのでしょう。
はじめて自動車の美しさに気づいた時の記憶から、
今なお逃れられないのでしょう。
仮に私が8歳の時に憧れの目で見た自動車は、
50年前の最新型であったわけです。
レイヴァーの説に従うなら
「風変りなもの」ということになるでしょう。

私の体験がすべてではありませんが、
おそらく流行の形は
らせん状にゆっくりと動いているようです。
けれども50年前のセイラー・ズボンが
今現在の最新流行と同一であるか。
これは難しい問題です。
リバイバル・ファッションも、
実は同じように思えるだけのことであって、
きっかり同じものではありません。
なぜなら人の記憶は
ついついだまされやすいところがあるからです。
そこには必ず、夢やロマンや
ファンタジーのベールがかけられるのです。
リバイバル・ファッションのひとつとっても
いかに流行が人間的であるか、お分りでしょう。


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2003年9月24日(水)

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