服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第364回
ソックスの色を楽しもう

左右の靴下を間違えて履いたことがありますか。
私はときどきあります。
よしこれで良しと、安心して外出し、
よく見ると右側が紺の靴下、左が黒の靴下。
ブーツで隠れているならまだしも、
こんな時に限って短靴なんですね。
さすがに図々しい私も顔が赤くなってしまいます。

でも、これをわざとやったらどうなるでしょうか。
つまり意図的に左右の靴下をとり違えてみる。
まさか、とおっしゃるでしょうね。
けれどもむかし、私はやってみたことがあるのです。
間違えたのでも、頭がヘンになったのでもなく。

正直に告白すると、
清水の舞台からとび降りるつもりで、
ウール100%のソックスを2足買ったことがあります。
1足はゴールデン・イエロー、
もう1足は深いグリーン。
我ながら実に良い色で気に入っていたのです。
ところが、ゴールド色の爪先に穴が開いてしまった。
本当は上手につくろうべきだったのでしょう。
でも、私はそうはしなかった。
捨てるつもりもなかった。
なんとか活かす方法がないものだろうか、と。

苦肉の策として、左側にゴールド色、
右側にグリーンの靴下を履いた。
靴はダーク・ブラウンのスェード・シューズ。―
これが意外に悪くなかったのです。
少なくとも友達を失うようなことはありませんでした。
もうこのふたつの靴下、どこかに消えてしまいましたが、
しばらくの間そんなふうに楽しませてもらったのです。

しかしどんな靴下でも適当に違えてみる、
ということではありません。
あくまでも計画的でなければなりません。
同じ素材の、同じメーカーの、
同じシリーズのなかから、
あえて左右色違いにしてみる。
もちろんカジュアル・ソックスでこそ
活きる着こなしでしょう。

さて、少しはその気になってきましたか。
全然、まったく、ちっとも。
それで良いのかも知れません。
が、カジュアル・ウェアに
さまざまな色調の靴下を楽しもう、
という気持ちにはなってくれるはずです。


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2003年10月1日(水)

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