服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第379回
5円のおしゃれ

伊東に「珈琲屋茜」(TEL:0557-36-9220)
という喫茶店があるのを知っていますか。
伊豆の伊東です。
珈琲屋を名乗るだけに、
なかなか美味しいコーヒーが飲めます。
伊東の地魚を食べた後のコーヒーには最適です。
でも、コーヒーそのものではなく、
5円のことなのです。

ある時、いつものようにコーヒーを飲んだ。
当然、お支払いをした。釣りがきた。
そのなかに5円が入っていたのです。
掌になにか違和感があったので、
よく見ると5円に小さな紫色のリボンを結んでいる。
まあ、たまたまそんなこともあるのだろう、と思った。
で、次の機会にもはやりリボン付きの5円玉が来た。
さすがにこれは偶然ではないぞと、気づいた。
「ご縁がありますように」の願いを込めて、
もう25年以上も続けている店の習慣なのだそうです。

なるほど私の場合にはふと気づいて、
ささやかなご縁を頂いたわけですが、
まあ、ひとつひとつ面倒がらずによくやるものです。
私のような不粋な男でも、
リボンの付いた5円玉は
大切にしようと思ったことがあります。

ふだんはそれほど気にとめない5円玉ですが、
昔むかしのおしゃれ物語を思い出してしまいました。
5円玉をパンツの裾口、
その中に縫いつけるのです。
言うまでもないが、5円には穴が開いている。
この穴を利用して、糸で縫いつけることができる。
これはシャレでも迷信でもなくて、重りのつもり。
つまりパンツのラインがこの重味のために、
よりすっきりと表現できると考えたのです。

パンツの脇縫目に沿って、
1個づつ5円を縫いつける。
片方で2個、計4個の5円玉を使う。
つまり20円の投資ということになります。

きっかり脇縫目中央に置くと、
5円同志が重なってしまうので、多少ずらす。
これなら畳んだ時やアイロンをかける時にも
かさばらないわけです。
重い生地ならそれほど関係ないでしょうが、
軽い生地のパンツのシルエットを活かすには、
かなり効果があったものです。


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2003年10月16日(木)

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