服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第401回
おしゃれなマティーニ

ドライ・マティーニはお好きですか。
どういうわけなのか
男はマティーニについて語りはじめると
際限がありません。
チャーチルもうんとドライなマティーニが好きだった。
そこで、
「ジンに向ってベルモットとささやいてくれ」と注文した。
マティーニが来た。
ひと口飲んで言った。
「少し声が大きかったようだね」―
こんな話をはじめるとキリがないのですが。

有名なところでは
ジェイムズ・ボンドのマティーニ好きがあります。
ということは作者のイアン・フレミングの
好物であったのでしょう。
原作のなかでも「ステアしないでシェイクして」とか、
逆に「シェイクしないでステアして」とか、
いろいろ注文をつける場面があります。

007シリーズ第1作はご存知のように
『カジノ・ロワイヤル』(1953年)です。
このなかでボンドがオリジナルのドライ・マティーニを
注文するところがあります。
ジンが3、ウォッカが1、そしてベルモット2分の1の割合。
ウォッカの指定はありませんが、
ジンはゴードン、ベルモットはキナ・リレ。
そしてレモンの皮を薄く、大きく切って添える。
氷のようになるまでよくシェイクする。
で、これを深いシャンパン・グラスに注ぐ。
つまりジンにウォッカを加えるところが独特で、
たしかにボンドの発明であるかも知れません。

ボンドはこの特製ドライ・マティーニに、
「ザ・ヴェスパー」という名前をつけるのです。
ヴェスパーは作中に登場する謎の美女で、
あとのほうでロシアとの二重スパイであることが分る。
ジンにウォッカが入ったマティーニ。
つまりかなり早い時期からボンドは彼女のことを疑っていた、
という伏線にもなっているわけです。

もちろん私も一度「ザ・ヴェスパー」を試してみました。
食前酒にしては少し強い。
酔ってしまいます。
私の場合、どうやらドライ・マティーニは
語るだけにしておいたほうが、よさそうです。


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