服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第457回
脱いだ上着の扱い方

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
ハンドルネーム「や」様から
メールをいただきましたので、
ご返答を掲載させていただきます。


■ハンドルネーム「や」 様にいただいたメール

件名:脱いだ服はどうしてます?

私の服装は今風の言葉でいえば、
ストリートファッション。
ちょっと前でしたらアウトドアルック、
まあ作業着みたいなもんです。

いつでも30リッターははいるデイパック、
トートバッグか大き目のヒップバッグなど
持ち歩いていますので問題ないのですが、
アウターもほとんどのポッケにジッパーが付いてますしね。

私のような格好ならいいのですけど。
脱いだ服は、どう扱ったらスマートなのかなど、
脱ぎ方の作法などあるでしょうし、
そんな特集もいかがでしょうか。

昔の映画の一こまか、忘れましたけど
女性のハンドバッグにちょこんと手袋が掛けられて、
テーブルか椅子かカウンターに置かれてるのを思い出します、
男は帽子の扱いがかっこいい。

50を過ぎてますので
ジャンギャバンやテリーサラバスぐらいはたまに思い出ます、
あとウエスタンものも。

最後に一つ質問になりますが、
礼服のコラムを読み疑問が、
靴下は下着として考えるのでしょうか?
なにか機会がありましたら知りたいです。


■出石さんからのA(答え)

日頃からご愛読下さり、
ありがとうございます。
また、ご丁寧にもお便りを下さいましたことについても、
重ねて御礼を申上げます。

脱いだ上着をどう扱うか。
たしかに難しい問題だと思います。
私にもここで明快な答をお出しする自信はありません。
とりあえずはタテに軽く二つ折りにして、
小脇にかかえ持つ、
といったくらいのものでしょうか。

いや、それ以前に上着をどう脱ぐか、
という問題があります。
理想的な上着の脱ぎ方は、
まず両肩を同時に外すことからはじまる。
まるで自分の後に服を脱がせてくれる
執事かなにかが居るようなつもりで、脱ぐ。
本当は2人で行う作業をひとりでやる。
ちょっとした一人芝居に似ています。
で、最後は後にストンと落としたところを
背中に回した右手で上襟の中央をつかみ取るのです。
もし、この一連の動作が完璧にできたなら、
たいへんに美しい。

一方、これに対して、
脱いだ上着の扱い方についての美の方程式は
まだ発見されていないのではないでしょうか。
たとえばフレッド・アステアあたりが、
軽くステップを踏んだ後で
上着を脱いで肩にかけて歩きはじめる。
でも、このしぐさが
誰にでもサマになるかどうかは分りません。
では、どうして脱いだ上着の扱い方は難しいのか。

まず第1に、
上着を脱ぐこと自体、異例であり、略式のことである、
と考えられてきたからでしょう。
むかしの紳士たちは、相当に暑くても我慢した。
彼らにとってはこのマゾ的な我慢こそが
美学であったのです。

第2にかつての貴族たちにとっては、
上着を脱ぐということは、
誰かが持っていてくれたり、
あるいはしかるべき場所に掛けておいてくれるもの、
と考えたのでしょう。
だから、脱いだ上着を自分で持つ、
という発想がなかったのかも知れません。

そんな時代の変遷がどうであろうと、
むかしの紳士の美学がどうであろうと、
21世紀の私たちが、
たかが脱いだ上着ひとつについて、
悩んでいることは、
間違いない事実なのです。


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