服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第463回
チロリアン・ハットの秘密

チロリアン・ハットを被ったことがありますか。
今、一番被ってみたい帽子のひとつです。
ポロ・コートなどに合わせたら、
ことに素敵ではないでしょうか。

正しくは“ティロリアン・ハット”
Tyrolean hatですが、
ここでは習慣に従って、
「チロリアン・ハット」としておきます。
たいていは毛足の長い、美しいフェルト地が使われ、
リボンの代りに細いロープを、
そして大胆な飾りをあしらうのが特徴の帽子です。
あの独特の飾りは“ブラッシュ”brush と言います。
「房飾り」と訳せるものです。
さらには登山に関連した小さなバッジを添えることもあります。
これはその名の通り、
チロルの山岳地帯を背景としていることと、
関連があります。

数多い帽子のなかで、
チロリアン・ハットはたいへん被りやすい。
帽子初心者にもおすすめしたいものです。
チロリアン・ハットはソフト帽と違って、
最初からシェイプ(形)が決っています。
あとはもう頭の上にのせるだけ、
という一面があるのです。
別言するなら、
チロリアン・ハットの形を修正するのは、野暮です。
そのくらいならはじめから
別のチロリアン・ハットを選ぶべきでしょう。

1935年に当時の英国皇太子が
ウィーンを訪れた折り、
このチロリアン・ハットを被っていた。
このために後に世界中に大流行することになったのです。
またしてもウィンザー公の話か、
とおっしゃるかも知れません。
でも、これは本当の話。
実はこれには前置きがあります。
ウィンザー公の祖父であるエドワード7世が、
やはり皇太子の時代に
オートストリアを訪れたことがあります。
この時、その地の帽子工場が皇太子に敬意を表して、
新しい帽子を作った。
それが実は今日のチロリアン・ハットの源なのです。

ややスポーティーで、
たいへん被りやすいチロリアン・ハット。
そしてまたその一方で、
なにかと英国皇太子とも縁の深い帽子なのです。
少なくとも単なる登山帽と決めつけずに、
親しく愛用しても良い帽子だと思います。


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