服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第574回
トロピカルの謎を解く

トロピカルという生地を知っていますか。
正しくは“トロピカル・ウーステッド”と言います。
洋服屋の仲間言葉では
単に「トロ」と省略することがあります。

もともとトロピカルは
夏の紳士服の代表選手で、
私も大好きな生地です。
初夏になると必ず着たいなあ、
と思い出す服地なのです。
ひと言で説明するなら、
強撚糸で織った生地。
強撚糸とは、細いウーステッド糸に
かなり強い撚(よ)りをかけて、織上げる。
このために生地に張りが生まれ、
さらりとした手ざわりがあります。
と同時に、美しい光沢があらわれるメリットもあります。

この美しい光沢を
さらに強調する目的で作られたのが、
“モヘア・トロピカル”。
たとえばタテ糸にウーステッド、
ヨコ糸にモヘアを使って織る。
光り輝くような薄手の生地に仕上ります。
もちろんタテ糸ヨコ糸ともに、
モヘアを使うこともありますし、
さらにはキッド・モヘアといって、
極上糸を使うこともあります。
モヘアとは本来、
アンゴラやぎの細く長い繊維なのです。
このモヘア・トロピカルを略して
「モヘア」と呼んだりするので、
ますます分りにくくなる。
でも基本はあくまでも“トロピカル”なのです。

“トロピカル”Tropicalは
実は登録商標で、
アメリカの「パーム・ビーチ」社の
盛夏用生地としてはじまっているのです。
むかし「パーンピース」という名称がありましたが、
これもパーム・ピーチ社の生地から来ているのです。
おそらく1920年代に登場した生地ではないでしょうか。
1934年のバーナード・ショウの著作のなかに
「白いトロピカルのトラウザーズ」が出てきます。
この時代にはすでに
英国へも伝えられていたのでしょう。

私も暑がりで、夏は苦手なほうです。
でも、暑いからこそ、
少しでも涼しい工夫をしようではありませんか。
ちょうど困った時にこそ、
良い智恵が生まれるように。
第一、「熱帯(トロピカル)」という名前からして
面白いではありませんか。


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