服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第583回
夏の親友はローファーです

コイン・ローファーを履いたことがありますか。
ふだんウェスタン・ブーツなどを履いている私ですが、
夏になると
コイン・ローファーを履くことが多くなります。
今では代表的なスリップ・オン・シューズのひとつで、
単にローファーと呼ばれることもあります。
でも、正しくは
“ペニー・ローファーズ”ではないでしょうか。
これは1930年代のアメリカで
生まれたスタイルなのです。

ペニー・ローファーのデザイン上の特徴は、
甲の上に細い帯状のバンドが
重ねられていることです。
馬の鞍のように思えるところから、
“サドル”と言います。
サドル中央には裂目があしらわれているのは
ご存じの通り。
この裂目に小銭をはさんでおくと、
幸運が訪れると、
かつてのアメリカ大学生は信じたわけです。
だからこそ
“ペニー・ローファーズ”の名前が生まれたわけです。
ついでながら、このサドル中央の裂目を
“ペニー・スリット”とか
“コイン・スリット”と呼ぶことがあります。

でもペニー・ローファーは実際には
“ウィージャンズ”Weejuns と
固有名詞で呼ばれることも多いのです。
アメリカ、バス社の商品名。
1936年、バス社がこのスタイルをはじめて考案し、
“ウィージャンズ”と命名したからです。
この頃、ある雑誌の編集者が
ノルウェイの、アザラシの、1枚革のモカシンを、
当時の社長、ジョージ・H・バスに贈った。
バスはこれをヒントに
“ウィージャンズ”を商品化したのです。
その意味では“レザー・ソールド・モカシン”と
表現するべきかも知れません。

まあ、そんな昔話はさておき、
私はこれを永遠の
スリップ・オン・シューズだと考えています。
履きやすく、脱ぎやすく、軽快この上もなし。
値段もさして高くない。
気楽に履ける。
ペニー・ローファーを学生用、
若者用ときめつけるのは、愚かなことです。
私などもサマー・スーツに
意図的にローファーを履いたりします。
ちゃんと手入れをしてやれば、
永くつき合いたい親友になってくれるはずです。


←前回記事へ 2004年5月20日(木) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ