服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第638回
山頭火の手拭い

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
富緒一郎 様から質問メールをいただきましたので、
そのご回答を掲載させていただきます。


■ 富緒一郎 様にいただいたメール
  ご質問

唐突で申し訳ありませんが、
差し支えなければお教えいただけないでしょうか。

私の古いスクラップブックに
読売新聞の切り抜きがあります。
「おしゃれ楽」というコラムに
「和式バス・ローブでくつろぐ」をお書きになっておりますが
あの記事はいつごろのものでしょうか?

私(1946年生まれ)は長年、
日常の下着として越中褌を愛用しいる者でして、
「オフロ倶楽部」というホームページに
越中褌にまつわる記事を定期的に投稿しております。
このたび、出石様のお書きになった記事の一部を
紹介させていただけたらと思います。

つきましてはこの記事が掲載されたのが
いつだったのかお教え願えれば幸いです。
宜しくお願いいたします。

富緒一郎


■出石さんからのA(答え)

ご丁寧にもお便りを下さり
ありがとうございます。
また日頃からお目通し下さっていることにも、
重ねて御礼を申上げます。

「おしゃれ楽」の件、
もし良ろしければどうぞお使い下さい。
ただし古いことなので、
詳しいことは私にも分りません。
おそらく1987年頃の記事だと思います。
実は1990年に『おしゃれ楽』(読売新聞社刊)として
一冊にまとまったことがあります。
が、なぜかご指摘の記事は収録されていないのです。
私の手もとにも資料がありません。
その意味では富緒様お持ちのスクラップは
案外、貴重?なのかも知れませんよ。

それにしても日常的に越中褌をご愛用とは
実にユニイクだと思います。
私も浴衣や着物の時には
この純日本風の下着を着けますが、
ふだんはどうしてもブリーフやトランクスが
多くなってしまいます。
どうか涼しく、解放的な、
日本独自のアンダーウェアを世に広めて下さい。

越中褌でいつも思い出すのは
山頭火の逸話話です。
放浪と風狂のうちに
肚(はら)から絞り出すような句を詠んだ、
種田山頭火のことです。
言うまでもなく終生、
旅と酒を愛した奇人であります。

山頭火は懐中に1銭もないこともあり、
日が落ちると、各地各所で
一宿一飯の恩義にあずかるわけです。
この時、山頭火はあいさつ代りに手拭いを差出す。
なぜ山頭火は手拭いを用意していたのか。
もちろんそんな用意が出来るはずがありません。
山頭火は近くの川であらかじめ褌をよく洗う。
これを乾かして、丁寧に畳む。
で、これを手拭いに見立てるわけですね。
瞬間、褌が手拭いに化ける。
まあ、これは山頭火ならではの忍術でありましょう。

もちろん泊めるほうでも
万事承知の上ですから、
ありがたく頂戴しておいて、
出発の際にさり気なく山頭火に返す。
こうして再び、手拭いは褌と化すわけです。
古き良き時代とはいえ、
褌にもさまざまな使い方があるのですね。


←前回記事へ 2004年7月30日(金) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ