服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第645回
かき氷は上野に限る

上野公園へ行ったことがありますか。
失礼。「最近行ったのはいつですか」
こう言い換えるべきでしょう。
上野はなんといっても春だよ、と言う人がいる。
これはむろん桜の名所であるからでしょう。
いやいや、秋に決っているじゃないか。
芸術の秋。
上野公園には西洋美術館をはじめとして、
文化施設がたくさんありますからね。
まあ、人それぞれの好みというものでしょう。

けれども私としては断然、夏です。
夏の上野公園は思いのほか人が少ない。
ゆっくりと歩いていると、
これが本当に東京のなかだろうかと思えてくるほどです。
それに樹の下を選んで歩いていると、涼しい。
風は通り、気温も心なしか低いように感じられる。

今でこそ公園ですが、
むかしは「上野の森」、
または「上野の山」と言ったのだそうです。
これはなにも形容ではなくて、
明治の頃は実際に森そのものであったらしい。
昼なお暗き森。
人が歩き、また煙などによって
自然に枯れて今のようになったのだそうです。
今は「山」とは感じませんが、
明治の地形としてはたしかに
深い谷と高い山になっていたとのこと。

まあ、それはともかく、
小一時間も歩くと、
涼しいとはいえさすがに汗をかいて、
のどが渇いてくる。
こんな時に、こんな所に茶店でもあって、
かき氷でも食べられたらなあ。
それがあるんです。
「韻松亭(いんしょうてい)」(TEL:3821-8126)。
明治8年の創業だというから、古い。
上野恩賜公園となったのが、
明治6年ですから、その2年後。
本当は夜、食事をするところなのですが、
その脇に風情ある茶店があるのです。
もちろんかき氷だけでなく、
さまざまな甘味が味わえます。

遠くに近くに、聴えるのはセミの声、
風が樹をわたる音だけ。
人の少ない自然のなかで、
ひとりゆっくりかき氷を食う。
アルミのスプーンでないのもちっとも気になりません。
ああ、極楽極楽。上野は夏に限る。
いや、かき氷は上野に限る。


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