服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第670回
ハッキング・ポケットと「用の美」

ハッキング・ポケットを知っていますか。
上着の脇ポケットが水平ではなく、
少し斜めに付いたデザインのことです。
“スランテッド・ポケット”ととも言います。
もともとはハッキング・ジャケット
(乗馬服の一種)に付いていたポケットなので
その名前があります。

馬に鞍を置き、
その上に跨った状態で、
手をポケットに入れやすい角度であったわけです。
つまりハッキング・ポケットは、
実用性、機能性から生まれたデザインなのです。
必ずしも斜めに傾けるのが目的ではなく、
手を入れやすい角度のポケットであったわけです。

さらに細かい点を眺めるなら、
単に角度だけでなく、
ポケットの位置があります。
高すぎても、低すぎても、
手の出入れに不都合であるかも知れません。
またフラップ(蓋)の幅についても
似たようなことが言えるでしょう。
馬を走らせながら、馬を操りながら、
素速くポケットの中のものを取出したい。
それにはもっとも使いやすい
フラップの幅と長さがあるわけです。

私たちがハッキング・ポケットを見ると、
いいなあと思う。
そしてその奥にあるのは、
使いやすさなのです。
機能美と言って良いでしょう。
これは単にハッキング・ポケットだけの問題ではなく、
男の服の最大の特徴なのです。
男の服と女の服の決定的な違い、
とも言えるでしょう。

別言するなら、
使いやすい形は美しいのです。
逆に使いにくい形は美しくないのです。
ただ時として、表面のかたちだけを見てしまうと、
本来の使いやすさを忘れてしまうことがあります。
これが続くと結局は、悪趣味になってしまう。
つまり男の服の根本は、使いやすさにあるのです。
服を選ぶ時にも、自分にとって使いやすいか否かを、
よく見極めることが大切でしょう。

以上、長々と説明をしたことを昔の人は、
「用の美」と言いました。
短くて、分かりやすい、
つまりこれ自体が美しい言葉ですね。


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