服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第709回
ある若いお嬢さんの勇気

煙草の吸い殻を拾ったことがありますか。
煙草の吸い殻は
ここにもそこにもたくさん落ちていますから、
とてもそのすべてを拾うわけにはいきません。
もちろん私だって
見て見ぬふりして通り過ぎてゆきます。

ところが今日、
煙草の吸い殻を拾った人を見ました。
場所は青山。
私はたまたまあるブティックの前に立っていた。
いや、ブティックに用があったわけでなく、
歩道に立って信号待ちをしていた。
青山通りを南側から北側へ渡ろうとしていたのです。

ちょうどそこに若い女性が
ブティックの店内に入ろうとした。
いや、実際、一瞬入ったのです。
が、すぐに通りに戻って、
店の入口に落ちていたひとつの吸い殻を拾って、
ふたたび店内に入って行った。

そのうちに信号が青に変ったので、
私は通りを渡り、
その後の女性と吸い殻がどうなったのか、知りません。
たぶん20歳前後でしょう、
そのブティックの服を上から下まで着ていましたから、
ファンなのでしょう。
店員さんに手渡して、
おそらく捨ててもらったものと思われます。

ここからは私の想像。
彼女だってまったく関係ない別の場所であったら、
同じような吸い殻でも拾わなかったかも知れません。
つまり自分の好きな服を売っているブティックの前に、
吸い殻を捨ててあることが
気に入らなかったのでしょう。
なんだか自分の服を汚されたような気持がして、
とても許せなかったのだと思います。

私の勝手な想像はさておき、
このお嬢さんの行動に感激しました。
自分の胸に手を当ててみても、
出来そうで出来ないなあ、と思ったからです。
少なくとも
「今日びの若い奴らと来たら・・・」
という決り文句を
しばらくの間控えることにします。
そして私も、もし自分の玄関の前や、
近くに吸い殻が落ちていたら、
勇気を出して拾おう。
どこかで誰かが見ているかも知れないから。
いつか誰かが真似をしてくれるかも知れないから。


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2004年11月15日(月)

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