服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第713回
ボタンを磨く話

ブレザーを着たことがありますか。
ブレザーくらい誰だって着るでしょう。
でも、なかには
「金ボタンさえ付いてなければなあ」と言う人もいる。
キラキラ光っているのが怪しからん、
と考えるのでしょう。

ブレザーはもともと制服で、
紋章なんかの入ったボタンを大量に、
しかも安く作るには
メタル・ボタンのほうが都合が良かったからなのです。
なにも光らせておくのが目的ではなかった。
だからブレザーからメタル・ボタンを取ってしまうと、
ブレザーでなくなってしまう可能性さえあります。

ところが人の好みはさまざまで、
ブレザーにメタル・ボタンが付いている以上、
常に美しく輝いていなければ気分が悪い、
と思う人だっているわけで。
単純に光らせておくのは簡単で、
金属研磨剤を使えばピカピカになります。
ただし下にある生地を汚してはならないので、
充分な注意が必要ですが。

まさかボタンを磨くことと
関係があるわけではないでしょうが、
軍服のなかには着脱式のメタル・ボタンがあったりします。
服のほうに小さな穴があって、
ここにボタンの茎(くき)というか、
アシというか、
支棒(ささえぼう)を差して留める。
つまり縫いつけていないので、
手で付けたり外したりできる。
さすがこれは名案ですね。

もちろん我われのブレザーは
それほど便利ではありませんが、
メタル・ボタンを別のものに取り代えるだけで、
全体の表情が変ることはご存じの通り。
まるで別物のブレザーになってしまいます。

たとえばノミの市で捜してきたような
年代物ボタンを付けてみると、
たちまち風格が増したりするものです。
むかし私は
自分でアンティック風ボタンを作ったことがあります。
まずロウソクに火をつけて、
この上にメタル・ボタンをかざす。
と、たちまちススで黒くなる。
このかなり黒くなったボタンを布で適当に磨くと、
俗にいう「古色(こしょく)」がつくのです。
ただし、適当に磨くというのは
好みやそれぞれのボタンとのバランスもあって難しい。
でも確実にそのブレザーやボタンへの
愛着が深まること間違いなし。


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2004年11月19日(金)

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