服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第715回
赤いヴェストの冒険者

どんな色のチョッキがお好きですか。
「チョッキ」というのは少し古くさいでしょうか。
ヴェスト、ウエスト・コート、ジレ・・・。
いったい何と呼べば良いのか、迷ってしまいます。
チョッキは時に「直着」の字をあてることもありますが、
実際には“ジャケット”から来た言葉のようです。
幕末、外国人の“ジャケット”を耳で聞いた日本人には
「チョッキ」と響いたのでしょう。
つまり「チョッキ」は
二重の誤解から生まれた言葉なのです。

テオフィル・ゴーティエ(1811〜1872年)と
チョッキについて、こんな話があります。
いうまでもなくフランスの詩人であり、作家。
ゴーティエが師と仰いだのが、ユゴー。
1830年、ユゴーの『エルナニ』が初演される時、
ゴーティエは真紅のチョッキを着てあらわれた。
この真紅のチョッキはたいへんな話題となり、
永く人びとはゴーティエといえば
真紅のチョッキを思い浮べたとのことです。

なにもゴーティエの真似をしようというわけではありませんが、
チョッキの色は
もっと自由であって良いのではないでしょうか。
たとえば真紅の上着や真紅のコートは
なかなか着る機会がない。
けれどもヴェストなら
それほどの勇気を必要としない。
仮に真紅であっても
その上にはジャケットを重ねるわけで、
ヴェスト全体を見せてしまうわけではない。

ところでひと口に真紅といっても
実は様ざまな色があります。
大きく分けて、
「男色(おとこいろ)」と「女色(おんないろ)」。
そんな言い方があるかどうかはさておき、
少なくとも私には
はっきりとあるように思うのです。
男にこそふさわしい赤と、
女にこそふさわしい赤との。
そして自分の感覚のなかで
「男色(おとこいろ)」と
明確に判断できる人がそれを着た場合に、
さり気なく似合ってみえるのではないでしょうか。

赤いヴェストは静かなる主張にふさわしいもので、
ゴーティエの場合も
だからこそ人びとの話題になったのでしょうし。
時にはほんの少し勇気を出して、
赤いヴェストを着て、
またそれが様になる男になろうではありませんか。


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2004年11月23日(火)

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