服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第740回
忙しい時にこそ野点のこころ

野点(のだて)をやったことがありますか。
ごく簡単に言えば、野外での茶の湯のことですね。
今でこそ「野点」といいますが、
むかしは「茶懸(ちゃがけ)」とか
「ふすべの茶の湯」と呼んだのだそうです。

むかし昔、豊臣秀吉が九州征伐に赴いたとき、
千利休もこれに従った。
今の福岡、箱先の松原で休憩した時、
利休が茶を点てた。
松葉を集めて火をおこし、
松の枝から茶釜を吊して湯を沸した。
むろんこの湯で茶を点てたわけです。
これは見事だったというので、
「ふすべの茶の湯」。
「ふすべ」とは木の枝などをいぶすことです。
それはともかく、野点の創始者もまた、
利休その人であったわけです。

<野点に定法なく従って巧者ならでは難しい>
と利休は教えたそうです。
つまり「決まり事がないからこそ、名人でなくては完成しない」
という意味なのでしょう。
まさにその通りでしょうが、
野点が戦場で生まれたところが面白いではありませんか。

近くの公園に行って、
ただ珈琲を飲んで帰ってくる。
いつかそんな話をした記憶があります。
これを単純にお茶に置き換えると、
即席の野点になるのではないでしょうか。
事実、アウトドア用品専門の
「モンベル」(TEL 06-6536-5740)は
「野点セット」(7,500円)を出しています。

もちろん携帯に便利な箱や袋さえあれば、
そこに自分好みの茶道具を入れたなら、
誰だって野点はできるわけです。
あとは野外で使えるコンロと水とがあれば、
風流な茶人を気取ることができるでしょう。

野点であろうとなかろうと、
自分で茶を点て、それを飲むことは、
知らず知らずのうちに
メディテーションになっているのです。
茶を点てること自体より、
そこからえられる精神の安定感のほうが、
はるかに重要なのでしょう。

あわただしい時にこそ、
あえて野点を楽しむ。
そしてその後は何事もなかったかのように、
平常心を取り戻したいのです。


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