服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第754回
わずか2500万円の本

ウィリアム・モリスを知っていますか。
W・モリスと聞いて、
ある人は装飾的な壁紙を思い、
またある人は素朴で頑丈な椅子を思うでしょう。
ウィリアム・モリス(1834〜1896年)は
英国の詩人であり、社会運動家であり、
美術工芸家でもあった人物。

けれどもウィリアム・モリスについて
忘れてならないのは、
ケルムズコット・プレスでしょう。
まるで芸術品のように美しい書物を印刷したことです。
1878年、W・モリスはロンドン郊外、
ハマースミス・モールに移り住む。
この地の、川沿いの、風変りな建物の名前が
ケルムズコットであったのです。
そしてこの自宅を工房として、
美術印刷をはじめるのが、1888年頃のことです。
ただし実際の仕事は、
アッパー・モール16番地の
一軒家で行われたとも伝えられています。

W・モリスが考えたのは、
紙に、印刷に、書物に、美の生命を吹き込もう
ということだったのです。
そこで自ら紙を漉き、
インクを作り、活字をつくった
これらの手順をほとんどすべて手作業で行ったのです。
まず最初、ゴールデン・タイプという
美しい活字を完成させる。
1890年のことです。
次いでトロイ・タイプという活字、
さらには独特のチョーサー・タイプを創る。
これはチョーサー著作集の印刷に使われたところから、
その名前があります。
このケルムズコット・プレスには
モリスに共鳴した何人かの工芸家が
それぞれの協力をしています。
親友のバーンジョーンズもそのひとり。

ところで最近一冊の本が発見されたとのこと。
それはケルムズコット・プレスが1896年に
48部だけ印刷した『チョーサー著作集』。
むろんチョーサー・タイプの活字で、
バーンジョーンズの本版画、
白い豚皮の装飾は
サンゴロスキーとサトクリフによるものです。
世界でもっとも美しい本と言って良いでしょう。
その値段、2500万円。
果して高いのか安いのか、さっぱり分りません。
もしご興味おありの方は、
崇文壮書店(TEL:3292-7877)に
問い合わせてみて下さい。


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