服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第765回
200万円のコートを着こなす方法

ピエール・バルマンを知っていますか。
オート・クチュール黄金期に活躍した
フランス人デザイナーです。
服飾史書の蒐集家でもあり、
知性派デザイナーとも称された人物。
むかし来日した折、
一度お会いしたことがあります。
そのピエール・バルマンの言葉に
こんなのがあります。

<毛皮のコートの着こなし方は、
 それが普通のコートであるかのように扱うこと。
 普通のコートの着こなし方は、
 それがあたかも毛皮であるかのように扱うこと。>

まさに名言でありましょう。
事実、英米の引用句辞典にも
たいていは収録されているほどに
有名な言葉でもあります。

もちろんこれは
女性ファッションについての言葉でしょうが
男の場合にも当てはまると思います。
これに我われの場合には
まず毛皮のコートは少ないでしょうから、
毛皮であるかのように扱えば良い、
ということになります。
考え方としてはごく簡単でしょう。
でも実際はどうでしょうか。
毛皮といってもあまりにも漠然としているので、
仮に200万円としましょう。
もし200万円のコートを着る時、脱ぐ時、
もっと大切に扱うでしょう。
着た時の心構えが違ってくる、
背筋も伸びることでしょう。
要するに自分が着ようとするコートに対して、
裕(ゆた)かな気分をしっかりと吹き込んでやる、
ということだと思います。

ブラック・ヴェルヴェット・カラーというのがあります。
男のコートの、上襟だけが黒い
ビロードになっているデザインのことです。
あれはフランス革命期にはじまったもの。
海の対岸ではフランス貴族が何人もギロチンに消えてゆく。
これを知ったイギリス貴族が
哀悼の意をひそかに表わすために
考えられたものなのです。

つまりはブラック・ヴェルヴェット・カラーには、
貴族階級、もしくはかつて
貴族階級であったことを
匂わせるデザインでもあるのです。
「普通の男の着こなし方は、
 あたかも貴族であるかのように振舞うこと。」
そんな言い方もできるのではないでしょうか。


←前回記事へ 2005年2月7日(月) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ