服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第791回
素材の時代がやって来る

「素材の味わい」ということを
考えたことがありますか。
『遊歩人』という雑誌のなかで、
料理人の野崎洋光さんが
「料理はおいしければいいのか」の題で、
文章を書いています。
ここで野崎さんは
<素材そのものの本当のおいしさが
 忘れられているのではないか>
と訴えています。

なるほどなあと、素直に感心してしまいました。
料理のプロが素材の大切さを強調するのですから、
説得力があります。
けれどもこれは
美食についてだけ言えることでしょうか。
おしゃれに関してもまったく同じことです。―
と言いつつ、今までその大切さに
あまりふれてこなかった私としては、
いささか反省もしています。

コットンにはコットンの良さがあります。
シルクにはシルクの、ウールにはウールの、
素材本来が持つ良さと美しさがあります。
少し極端な表現をすれば、
極上のシャツに極上のタイを締め、
極上のスーツさえ着ていれば、
もう何も必要ではないのです。
色が柄やデザインは、
必ずしも極上ではない材質をごまかすための
小手先のこと、とも言えるでしょう。

無地こそ最上の柄である。
これもまたいかに素材の良さが
大切であるかを知るうえでの、
名言でしょう。

さて、食の素材と衣の素材。
その良し悪しを知るのは、どちらが難しいか。
私は食のほうだと思います。
米本来の味を知るのは、難しい。
これに較べれば、
コットンの良さを知るほうがずっと易しい。
これはシルクでもウールでもまったく同じことです。

指先でさわって、また素肌に直接ふれて、
心地良いほうが必ず上質の素材なのです。
このことに例外はありません。
ただ味覚と同じように、
いつも自分の感覚を
明敏に保っておく必要はあるでしょうが。

下着やシャツなど、
肌にふれるものが常に最上の材質である人は、
めったに不機嫌になるものではありません。
食と同様、衣もまた、
直接に人の心を左右するものなのです。


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