服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第816回
新しい喪服の提案

もし葬儀があったなら、
どんな服を着て行きますか。
ヨハネ・パウロ2世の死去の報に接して、
ついそんなことが頭に浮かんだのです。
もっとも私自身はまったくの無宗派です。

葬儀はさておき、
通夜の席では普段着であることが望ましい、
とはよく言われることです。平服で行く。
仮に仕事中であれば
ビジネス・スーツということになります。
まあ、常識的に考えて
ダーク・スーツに白いシャツと
やはりダークな色調のネクタイ
といったところでしょう。

では、葬儀の席ではどうあるべきか。
黒のスーツに白いシャツ、
そして黒無地のネクタイということになります。
まずこれ以外には思いつかないのではないでしょうか。

ここでもう一度、
ヨハネ・パウロ2世の葬儀に戻ります。
各国の首脳者が出席したことは
言うまでもありません。
これらの服装を眺めていると、
必ずしも黒いスーツと
黒いネクタイではないことに気づきます。
たとえばアメリカのブッシュ大統領は
ダーク・スーツに、
ミディアム・グレイのタイを
結んでいるように見える。
前大統領、ビル・クリントンも
同じくダーク・スーツで、
ライト・グレイのネクタイ。
こちらのほうが無地ではなく、
水玉の柄のように思えます。

英語では「喪服」のことを
“モーニング・ウェア”と言いますが、
この問題はどう考えるべきでしょうか。
私は喪服もまた新しい時代を迎えていると思います。
葬儀だから、黒服でも良い、
というのは消極的すぎる。
葬儀とは故人への哀悼をテーマとした社交だと思います。
哀悼の気持があるなら、
判で押したような黒服でなくとも良いのです。
黒服に黒ネクタイは一種の逃避でもあります。

なにもブッシュ大統領の真似をしよう
というのではありませんが、
ダーク・スーツに白いシャツと
ダークなタイで出席したいと思います。
黒であるか否かが大切なのではなく、
心から哀悼の意を表現することが重要なのですから。
世の中、なにごとも変らないことなどないのです。
これからは喪服の考え方も変ってゆくことでしょう。


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