服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第866回
紫の背広物語

紫色はお好きですか。
古代、紫色が高貴の色とされたことはご存じの通り。
なんでも遠い海の、珍らしい貝の、
特別な液で染めたのだそうで、
たいへん高価な色であった。
むろん色の持つ印象もあったのでしょうが、
高価な色から高貴な色と
されるようになったのでしょう。

ひと口に紫といっても様ざまで、
ラベンダーのような色もあれば、
やがて紺に近いような紫もあります。
それがどんな紫であろうと、
はじめてその色を着るのは、
大いなる勇気を必要とするものです。
けれどもこの勇気、興奮、緊張もまた
人の心にとってのスパイスと
なってくれるのかも知れません。
時には、これまで一度も着たことがない色に
挑戦してみるのも、
気分を一新させてくれるものです。

作家の福永武彦(1918〜1977年)に
紫の背広を着る話があります。

<<その紫の背広は
 (外国人向きの品物には違いないが、
  おしゃれなアメリカ人もさすがに敬遠したのだろう)
  ちょっと気恥ずかしいような気持ちを
  いさぎよく振り切ってしまえば、
  なに憚(はばか)るところあらんや>>
「遠くのこだま」新潮社刊

と買いていますから、
福永は実際にそれを着たのでしょう。
夏の軽井沢、「ウサギ屋」という店で
2000円で買ったとありますから、つくり事ではない。
もっとも1960年頃の話ですが。
8月末にセールがある、
そのセールを狙って、買った。
いや、そんなことはどうでもよろしい。
問題は、福永武彦の服装に関しては
ただ我が道を行く、という姿勢が見事だということ。
「小説家という商売であればこそ・・・」
と言わないで下さい。
休日の服装なら皆、同じだと思います。

服は人にとっての道具のひとつですから、
それを上手に、大胆に、賢く使って、
気分転換をしようではありませんか。
たとえば紫の背広を着てみるとか。
あるいは紫色のシャツやポロ・シャツ。
さて、これが似合うためのおまじない。
心の中で「フクナガタケヒコ」と
3度唱えて下さい。


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