服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第868回
着るおしゃれか読むおしゃれか

おしゃれ心を持っていますか。
結局、もっとも大切なのは
おしゃれ心だと思うのです。
たとえば同じような体型、顔立ちの
AさんとBさんが居たとしよう。
で、同一の白麻のシャツを同じように着る。
でも、よく見ると
Aさんのほうがおしゃれに見える、
ということがあります。
たぶんこれはシャツでも体型でもなくて、
おしゃれ心の問題ではないでしょうか。

ではおしゃれ心、
どうやって磨くのか。
ちょうど画集を眺めて絵心を育てるように、
おしゃれ教本を読むのが近道だと思います。

<<麻のシャツに、背広も麻で、
 (どこかに珈琲色の匂いのある渋い白の極上の麻である)
 手に葉巻を持ち、その葉巻の尖端に、
 焼いた人骨の色のような灰色の灰が積っていて、
 焦茶(どこか緑の入った、泥(どろ)のような鈍い色)
 の靴の脚を組んで腰掛けている、とくれば最高である>>
 著 森茉莉 「贅沢貧乏」 新潮社刊

もちろん好みもあるでしょうが、
これは優れたおしゃれの教本だと思います。
森茉莉は男のおしゃれに通じていた、
ごく例外的な存在でしょう。
本物の男のおしゃれが何であるかを、
実によく弁えた人物でありました。

若い頃の私は森茉莉に傾倒して、
ご本人を見学に行ったことがあります。
当時、下北沢に邪宗門という喫茶店があって、
毎日同じ席で原稿を書いている、
という噂があったからです。
物好きで暇な私がそこに行ってみると、
まさに森茉莉がいて、驚いたことがあります。
それからかなり後になって、
一度原稿をお願いしたことがありますが、
まあ、一種の奇人でありました。
天真爛漫そのもの。
それであれほど凝った文章が書けたのですから、
「文(ふみ)の心」を持っていたのでしょう。
つまり文章においても
「心」の問題になるのかも知れません。

私は葉巻を嗜まないので失格でしょうが、
上麻の上着に「珈琲色の匂い」を探すことなら、
多少できるかも知れません。
まあ、そんな風に
おしゃれ心を磨きたいものです。


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