服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第883回
フジタ式素足の美学

藤田嗣治を知っていますか。
私でさえ知っているのですから、
誰もが知っているでしょう。
もちろん画家のフジタのことです。
洋画の勉強にパリに行ったのだけど、
優れた画家が数多くいる。
そこで面相筆を使って絵を描いたところ、
たちまち注目されるに至ったことはご存じの通り。
面相筆は日本人形の目鼻を描くような、
ごく細く長い筆のこと。
和の画材を活かすことで
独特の画風が生まれたのです。

ある時、藤田嗣治が
パリの町で交通事故に遭った。
意識不明のまま病院にかつぎ込まれる。
最初はどこかの浮浪者かと思われたらしい。
ところが靴と靴下を脱がせたその素足がきれいだった。
それで上等の病室があてがわれたという。
もちろん戦前のパリの話であります。

友人のひとりに
写真家のMという人物がいます。
この男もいささか風変りで、
いつでも、どんなときでも素足に靴を履く。
固い革靴にも必ず素足。
どうも靴下を履かないことが、
M氏のダンディズムであるらしい。
とにかく礼装のための黒靴下を
1足持っているだけ、というのだから、
徹底しています。
もちろん真冬でも素足に靴。

M氏ほどではなくても、
夏にスニーカーを履くような場合には
やはり素足が心地良いということになるでしょう。
サンダル、エスパドリーユ、ワラッチ、サボ・・・など、
むしろ靴下を履かないほうが
良い代物も数多くあります。
一方、極上の靴であればあるほど、
素足でもまったくストレスを感じない。
素足は靴の品質を確めるための
パロメーターでもあるわけです。

素足の快適さは、
実は清潔さと表裏一体なのです。
素足であればこそ、
足だけを簡単に洗うこともできるでしょう。
洗った後、ベビー・パウダーをすり込んでおくのも
ひとつの方法です。
もちろん1、2滴のオーデコロンというのも名案です。
シンプル・イズ・ベスト
そしてシンプルゆえの目に見えない努力もまた
必要なのです。


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