服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第884回
夏の腕時計の美しいアイディア

今、どんな腕時計をしていますか。
いや、なにも銘柄を
おたずねしようというのではありません。
夏にふさわしい腕時計があったらなあ、
と思うからです。
手首に汗をかいてバンドが濡れるのは、
あまり心地良いものではありません。

<腕時計外せるのみにやや涼し> 「白岩三郎」
という俳句がありますが、
その気持はよく分ります。
私の知人に今、83才の会社社長Mさんがいます。
この間お目にかかった折、
白地に赤とブルーのチェック柄のシャツを着て、
そのシャツの上から腕時計をはめていました。
赤い革バンドのロレックス(ボーイズ・サイズ)で、
いいなあと思ったことです。
ひとつにはおしゃれなアイディアであり、
そしてもうひとつには
多少汗をかいても気にならない点です。
ぜひ私も真似をしてみようと思ったこと
言うまでもありません。

結局のところおしゃれの精神とは、
アイディアを駆使して活かすことです。
高級品を身につけることが
必ずしもおしゃれであるとは限りません。
そしてアイディアとは知恵に属することですから、
おしゃれ上手とは優れた知性の証明でもあります。

おしゃれとはアイディアから出発するもので、
アイディアは真似からはじまることもあります。
だから真似ることを恥じる必要はありません。
むしろ上手な真似方と下手な真似方があることに
思いをはせるべきです。

むかしパリに、ジャン・パトゥという
オートクチュール・デザイナーがいました。
次シーズンの傾向色がどうしても浮かんで来ない。
夜を徹して想を練ってもまったくわいて来ない。
徹夜の朝が明けて、
少し頭を冷やそうと公園に散歩に行く。
ペンチに腰をおろす。
と、その時、たくさんの枯葉が落ちている。
落葉のひとつひとつに
それぞれの色があることに気づく。
翌年、ジャン・パトゥの落葉色は
大流行になったということです。

私たちもアイディアの深泉を目にしているのです。
でも、それがあまりに自然であるために、
気がつかないだけかも知れませんよ。


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