服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第938回
「お帰りなさい石津謙介さん」

10月20日が誕生日という方は
いらっしゃいますか。
10月20日は、作家の坂口安吾が生まれているし、
アメリカの推理作家、エラリークイーン
(本名:フレデリック・ダネイ)もこの日が誕生日。

今年の5月に93歳でお亡くなりになった
石津謙介さんも、
実は10月20日のお生まれなのだそうです。
明治の末、岡山に生まれています。
生家は石津紙店で4代続いた老舗であったとのこと。
その裕福な商家の次男として生まれ、
何不自由なく育つ。

とにかく未成年で、
学生服姿で料亭に通ったといいますから、
遊びひとつについても年季が入っています。
戦後、中国は天津(てんしん)に渡って、
いっそうおしゃれにも磨きをかけるのです。
「大川洋行」という、今でいえば
セレクト・ショップでしょうか、
ここで大いに活躍する。
なんでも着るものはすべて舶来品だったそうです。

とにかく石津謙介さんの話をはじめれば
キリがありません。
おそらく戦後の日本人で
これだけ自由に、
カッコよく遊んだ人はいないでしょう。
ある時、85歳頃、
「どうしてそんなにお若いんですか?」
と愚問を発したところ、
「だってストレスが何もないんだもの」
と答えたことがあります。

好きと嫌いのはっきりした方で、
嫌いなことは絶対にしなかった。
好きとなれば、まわりの常識なんか
目に入るような人ではありませんでした。

さて、10月20日に
「お帰りなさい石津謙介さん」
という催しがありました。
ある種のお別れの会ですが、
実際には写真展で、
花もなし、線香もなしという趣向。
幼少期から晩年に至るまでの
ご本人の写真が展示してあります。
好きな人が好きな時間にそれを見て、帰る。

石津さんは生前から
カッコイイ葬式がやりたいなあ、
と言っておりましたから、
それで良いのでしょう。
いわゆる「お別れの会」もこれからは
ゆっくりと変ってゆくのではないでしょうか。


←前回記事へ 2005年10月26日(水) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ