服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第956回
世界でもっともリッチなコート

ランチ・コートを知っていますか。
もちろんランチlunchとは
まったく関係ありません。
“ランチ”ranch のほうです。

アメリカ西部の牧場で働く男たちが
着ているようなコートのことです。
その意味では一種のウエスタン・ルックの
ひとつとも言えるでしょう。
別名をシアリング・コートとも言います。
羊の一枚皮を使って仕立てるコートだからです。
裏皮部分を表に、毛皮部分を裏にして
一着のコートにするわけですから、
暖かいのも当然でしょう。

今、部屋のなかはたいていの場合、暖かい。
時にヒーターが効きすぎていることさえあります。
だから室内では軽装であるほうが良い。
けれども一歩外に出ると、寒い。
つまりどうしても気温差が大きすぎるのです。
そうするとなにか
ドレッシーなシャツ一枚にしておいて、
その上に直接ランチ・コートを羽織る、
といった恰好がしたくなるのです。

もちろん暖かいコートなら良いわけで、
ランチ・コートと限るわけではありません。
ただコートのおしゃれはコントラストの美学で、
脱いだコートの下からは、意外な色柄、
スタイルがあらわれるほど効果的なのです。

部屋のなかでシャツ一枚ということは、
当然、おしゃれな、
主役にもなってくれるようなシャツでありたい。
そうすると西部劇に出てきそうな
ランチ・コートが最適であろう、
ということになります。

世にリッチなコートは数々ありますが、
まずその第一は、
ランチ・コートではないでしょうか。
すでにお話しましたように、
本来は牧童たちの着たコートです。
で、おそらくはその牧童主が
「なかなか具合が良さそうだな、
 俺にもひとつ羽織らしてくれないか」
とはじまったのではないでしょうか。
つまり最初は借着であったのかも知れません。

それはともかく
ランチ・コートに袖を通したなら、
西部劇の主人公を気取るのではなくて、
牧場の2つや3つ位は
持っていそうな顔つきをするに限ります。


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