服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第985回
心に火を点す赤いマフラー

ダミアを知っていますか。
古い話ですが、
むかしのパリのシャンソン歌手です。
本名をマリー・ルイーズ・ダミアンといったのですが、
誰もがダミアの愛称で呼び、
いつしかそれが芸名にもなったのでしょう。
第二次大戦前のパリで大活躍した
ダミア(1889〜1978年)は、
藤田嗣治とも知り合いだったそうです。

<そのシャガレタ調子っぱすれの、
 アパッシュ好みのするグロテスクな歌は、
 物好きな芸術家達を喜ばせて、
 今では、一流の歌うたいとなっている。>
 藤田嗣治 著 「巴里の横顔」

1929年に出した著書のなかで、
そのように書いています。
ダミアもまたマンパルナスの下町から
人気が出たこともあり、
また友人でもあり、
フジタとしても共感していたのでしょう。
好き勝手にダミアのことを書いています。

それはともかく
「アパッシュ好み」とは、
説明が必要かも知れません。
ひと言でいえば当時の「パリの不良」ということ。
つまり不良スタイルです。
では、具体的にはどんな恰好であったのか。
それはいつでも黒い服に赤いスカーフやマフラー。
ダミアが唄う時には、
その受付係まで皆、黒い服に赤いマフラー。
そのくらいにトレードマークだったのでしょう。
そしてフジタに言わせると、
それはもともとは街の不良のスタイルだったらしい。

黒い服に赤いマフラーなら、
誰にだって出来るでしょう。
ただ、黒と赤は永遠の対局にある配色で、
これを見事なコントラストと考えるか、
それともやりすぎて下品と感じるかは、
意見の分れるところです。

でも私としては
赤いマフラーは大いに賛成です。
なにもマフラーとは限らず、
どこか一点、真紅を身につけることは、
視覚上の保温性があるからです。
赤を見て、暖炉の炎を想像すれば、
心の中からあたたかくなってくるではありませんか。
ただしひとつの着こなしのなかで、
真紅は一ヶ所だけにしましょう。


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