服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第987回
ほんとうに贅沢な心

今の時代に贅沢なことは何だと思いますか。
もちろんこれは人それぞれに違ってくるでしょう。
でもね、私は長火鉢じゃないかと思うんです。
少なくとも私はずっと長火鉢に憧れてきた。
単なるインテリアとしての長火鉢ではない。
実用品としての長火鉢。
ということは
炭火が完全に使いこなせなくてはいけない。
現在、上手に炭火が使えることは、
とてもおしゃれなことだと思うのです。

長火鉢のなかには
鉄びんかなにかが入っていて、
チンチンと湯が沸いている。
これでお茶を飲み、
酒に燗をつけることだってできる。
カラスミを軽くあぶったり、
キリタンポだって出来るかも知れない。
頭さえ使えば、長火鉢と炭火を使って、
居ながらにしてたいていのことが出来てしまう。
しかも決して即席ものではなく、
本物なのですから
まさしくクオリティ・ライフというものでしょう。

そうです、本当のおしゃれとは結局、
クオリティ・ライフということに行き着くのです。
うわべの恰好ではなくて、中身の良さ。
まあ、それはともかく
後に長火鉢があったとしましょう。
で、その前に座る時、何を着るか。
ホーム・ウェアですね。
私ならやはり半纏ですね。
はき古したフラノのズボンに、
これまた年期の入ったタートルネック・スェーターで、
その上に半纏かなにかを羽織る。
これはもう冬のホームウェアとしては
極めつきというものでしょう。
もし出来ることなら、
紬(つむぎ)か御召(おめし)の
古典的な縞柄でありたい。
要するに絹ですね。
半纏といえばすぐに
木綿を想像するかも知れませんが、
むかしは木綿の半纏は
外着(そとぎ)にしたものです。

で、冬で、寒いときているのですから、
少し綿(わた)が入っている。
今なら化学綿が入っているかも知れません。
けれどもここは贅沢の話をしているのですから、
中綿(なかわた)にも
真綿(まわた)を張込みたいものです。
真綿(まわた)とは
かいこで作る絹綿(きぬわた)のこと。
これは本当に軽くて、温かい。
しかもその温かさは着ている本人にだけ分る。
外から見ただけでは
なんの変哲もない綿入れなのですから。
これまた贅沢な心のひとでありましょう。


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