門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第1回
音と共に飲む珈琲「あ〜でん」

「午前中はタンノイ、
午後はパラゴンで音楽を楽しんでもらっています」
と書かれた文字を見たとたんに鼓動が早くなった。

処は九州・由布院。それも中心部から離れた場所にある。
オーディオファンなら、誰もが垂涎モノのスピーカーだ。
おまけに、それらを鳴らすアンプが午前中は上杉アンプで、
午後がマッキントッシュときた。
これは飛び込むしかない、と訪れたのが4年ほど前。

建物自体が音響を考慮して作られている。
現在の主は大谷祐香さん。
この「あ〜でん」を作ったのは伯父さんだという。

「伯父は由布院のオーディオマニアのお世話をしていたので、
自然と自分が好きな機種を残しておいて
喫茶店を作ったんです」と。
その遺志を継いだのが大谷さんというわけだ。
彼女は、以前東京でカメラマンをしていたこともあり、
店内には作品が数点飾ってある。

最初に訪れたときに鳴っていたのは
サックスプレイヤーのポール・デズモンドであった。
艶やかな音が僕を包み込む。
目を瞑ると、
そこにサックスがあるのではないかと思えるほどであった。

そこで僕はずらりと並んだCDラックから
「鬼太鼓座」をリクエストした。

これには驚愕した。
太鼓の奏者が、まさに目の前で撥を鳴らしているのではないか
という錯覚に陥ったのだ。
オーディオの愉しみを再認識することとなった。
以降、由布院を訪ねるたびに時間があれば
「あ〜でん」に立ち寄ることにしている。

最近大谷さんは、自分で焙煎を始めた。
それが結構深煎りで、好みの苦さなのである。

「オーディオを鳴らしているうちに、
すこしずつ自分の好きな音になってきたのです。
珈琲も同じように、自分の好きな味を作りたい
と焙煎を始めたのです」とにこやかな笑顔で語りだした。

そこには珈琲道を究めるといった重さはなく、
むしろ自分の趣向をじっくり作り上げたい
という軽やかな気持ちが流れているのであった。


【本日の店舗】
「あーでん」
 大分県由布市湯布院町川北918-32
 0977-85-2530


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2011年2月8(火)

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