門上 武司

「一杯の珈琲から一皿の満足まで」
  門上武司の食コラム

第96回
INODA COFFEE 本店

「三条へいかなくちゃ 三条堺町のイノダっていうコーヒー屋へね」

という高田渡の「コーヒーブルーズ」という歌がある。
ここを初めて訪れたのは忘れもしない。
小学校6年生の夏休みのことだ。
北海道から同じ年の従姉妹が遊びに来ており、
当時大学生であった兄貴が僕達2人を連れて行ってくれた。
夏の暑い盛りである。
従姉妹はアイスコーヒー、僕はコーヒーを飲んだ。
おそらく喫茶店の初体験。


運ばれてきたコーヒーにはミルクも砂糖も入っていた。
ここは最初からどちらも入っているのだ、
という兄貴の説明を聞きながら、
そっとカップに口をつけ、
熱さを我慢して飲んだことを今も忘れはしない。
大人の味とはこんなものなのかと感じていた。
「この店には女性のサービスはいないんだ、
全員男性というのも決まり」と兄貴が教えてくれた。
初老の紳士然とした人から、
若い男性まで揃った姿は、
子供心にも格好がいいなと思っていたのである。

京都の高校に入学し、
小学校以来の「INODA」通いが始まることとなった。
この店には旧館と新館があり、
もっぱら旧館のソファ席に陣取り、
コーヒーを飲みながら同級生と本を読んだり、
青い議論を闘わせたものだ。

大学、社会人になってからも
定期的な「INODA」通いは続いていた。
その頃にはサービスに女性も加わり、
僕自身の飲み方も変化していった。
コーヒーは砂糖もミルクも入れないブラックとなり、
ここでは「ミルク無し、小さい角砂糖だけつけてください」
とお願いをするようになっていた。
最近は「ミルクは入れて、砂糖は別にしてください」となった。

一度火災で消失した店だが、
ほぼ昔通りに造られ、僕は旧館でコーヒーを飲むことが多い。
そこに座ると、さまざまな思い出が蘇ってくるのだ。
考えれば50年近く通っている店は、
この「INODA COFFEE」しかないのである。
だからここは僕にとって貴重な1軒だ。

【本日の店舗紹介】
「INODA COFFEE 本店」
 京都市中京区堺町通三条下ル道祐町140
 075-221-0507


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2012年1月6日(金)

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