迫り来る危険を察知して
もちろん、それが自分たちの希望的観測にすぎなかったことは、やがて歴史が証明をしてくれる。しかし、若くて未経験で、正義感だけは人後におちない青年として、私ははじめて踏んだ香港の土地が台湾に比べて如何に自由の天地であるか、痛いほどわかった。
廖博土が私の労をねぎらうために、私を香港サイドにあるリパルス・ベイ・ホテルに案内してくれた。海の見えるベランダで、天井からぶらさがった大きな扇風機の風にあたりながら、
「こんなところに住めるようになったらいいですね。まるで船艙からいきなり一等キャビンにあがってきたような感じです」
と私は本気になって言った。
「また来たらいいでしょう。一等キャビンに出ない間は、船艙の窮屈さはわからないけど、一旦、一等キャビンを経験すると、もう元へは戻れなくなりますよ」
と廖博士は笑いながら答えた。
私は任務を終えると、台北を出発した一週間後にはもう台北市に戻っていた。何事もなかったように私は元の生活に戻っていたが、心は落ち着かず仕事も手につかなくなっていた。
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