東大出にもわからぬ密貿易のノウハウ

お金だけが物を言う香港
香港に行くと、東大卒など全く通用しない。のちに私は香港で結婚をしたが、女房を連れて東京に移住してから、ある日、本郷の近くまで行ったので、
「昔、僕が勉強をした大学がこの近くにあるから、ちょっと覗いて見よう」
と女房を案内して赤門をくぐったことがあった。私がよくかよった図書館や経済学部研究室などを見てまわったら、
「あなたの大学、割合に校舎が立派だわね」
と妙な感心のされ方をした。東京に住むようになってからでもこの調子だから、女房は私が日本のどこかの大学を出たくらいのことは知っていたが、東大が日本人にとってどんな大学なのか知る由もない。ましてお金だけが物を言う香港の町で、毎日のようにドッと流れ込んでくる何十万人の難民の一人がどんな大学を出たかは、従業員の採用をするときの参考にだってならないのである。
香港はお金が物を言う街である。お金を持っている人が尊敬されるし、大事にされる。反対にお金がなかったら、洟もひっかけてくれないし、召使いからさえもバカにされる。
荘要伝と二人で香港に亡命した私は、とりあえず廖文毅博士の邸宅にころがりこんで居候をきめ込んだ。廖博土のところには、私たちより一足先に亡命した若者が三、四人、同じように居候をしており、別に廖氏の親戚の子供で、香港に留学しているのが二人、同居していた。
同居していた留学生は、家から仕送りがあったので、自分たちの食費を分担していたが、私たちは居候としてお金を払わなかったので、台所と洗濯を受け持っている女中さんからも冷たい扱いを受けた。
それは無理もない話で、香港の女中さんは日本のお手伝いさんと違って、家事労働のプロであり、家事のうちどの部分を受け持つのか、世話をすべき対象は何人なのか、あらかじめきめてから月給の額をきめる。一人で台所から掃除から洗濯まで全部やるのを広東語では一脚(イツキョツテツ・一本足で蹴るという意味)というが、廖博士の家は、この一脚の女中さんであった。
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