お先まっくらに
商売の経験などまるでなかった私は、このバクチに全財産の半分を賭けた。あと半分はもしこの賭けに負けたときに、辛うじて生きのびるために残しておくよりほかなかった。
密貿易の荷物をどうやって船の中に積み込むかはこのときに習った。まず、商品は石油カンに詰めてハンダづけをする。それをさらにゴム袋に入れて、袋の中には空気が入らないように密封をする。どうしてそんな手間のかかることをするかというと、日本の港についたとき、岸壁を守るMPとうまく話がついて堂々とトラックで荷を運び出せるときはよいが、万一、それが不成功に終わった場合は、反対の海側に荷物を投げおろし、プカプカと波間をただよっているのをハシケで拾う作業をしなければならないからである。
こうして荷づくりされたものを真夜中にハシケで貨物船の中に積み込み、石炭貯蔵室の中に隠す。その上から石炭をかぶせて見えないようにしなければならないが、燃料にする石炭はその山から使いはじめ、日本の港に到着するころには一皮払いのければすぐにも荷おろしのできる状態にしておくのだそうである。
もちろん、機関長から船員まで丸ごと抱き込まなければ成り立たない商売であるが、きくこと、見ること、ひとつひとつが私にとっては全くの新しい勉強であった。積込みが全部終わったのはもう真夜中で、フェリーボートも動かない時間になっている。蔡はそのまま貨物船に乗り込み、翌朝早く香港を出帆した。
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