毛が生えてきた!
東京から戻った私は、妻から一部始終をきいて次男坊の親孝行ぶりにあらためて感激をした。若ハゲに悩む人はわんさといるが、私もご多分にもれず頭のことをしょっちゅう気にしていた。しかし、ヨーモトニックからはじまって加美乃素、さては、髪の毛の生えそうな治療室や美容院には千里の道を遠しとせずしてかよった実績があり、しかもすべて薬石効なく失望に終わっているから、そんな話をきかされても、どうせ眉唾だろうと思ってたいして信用もしなかった。
「でも頭にふりかけるだけと言っていたよ。嘘でもやってみたら」
と幼い息子はしきりにすすめる。そうなると、もともとやみがたい渇望を持っているのだから、駄目でモトモトという気になって、東京で本人と面談をする約束をした。
約束の場所ではじめて顔を合わせると、痩せて小柄な人だったが、漆のように艶々とした黒い髪の持ち主だった。話をきいてみると、本人が偶然に発見した酵素はもともと防腐剤的な役割をはたすものではなくて、どうやら細胞の働きを促進する何らかの作用をする酵素の一種であるように思えた。
ヤケドをしたときにすぐ患部につけるとケロイド症状が生じないというし、また鼻毛の白くなったところにつけると、たちまち黒く戻るという。また水虫につけると、患部が真っ白になってボロボロ落ちてしまうそうである。それをきいてもにわかには信用する気にはなれなかったが、「とにかく物は試しですからつけてみて下さい」と、試用液をポリの容器に一瓶渡された。
たいして期待していなかったが、頭につけはじめてから約一か月くらいたって、ある日、新幹線に乗って洗面所でフト鏡の中を覗き込んだら、後頭部の光っていたところに薄く産毛が一面に生えているのに気がついた。思わずあッと固唾をのんでしまった。
「本当に毛が生えてきたぞ。大変だ」
大変だということの中には、嬉しい、やったぞォ、という感動のほかに、世の中には私と同じようにハゲで悩んでいる人がわんさといて、もしこれが本当ならたいへんなお金儲けになるぞという、反射神経的な叫びがまじっていた。
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