亡命24年、国民政府から帰国の誘い
雑誌の経営は果樹園の経営と同じ
『話の特集』の再建のために私が投じたお金は合計して千九百十万円にのぼった。当時はマンションが一室六、七百万円で買えたから、三室分のお金に相当した。それを二年がかりでやっと軌道に乗せて、そのまま無償で矢崎泰久君にあげたから、「本当にもったいないですね」と感嘆の声をあげる人も二人や三人ではなかった。
文藝春秋の社長室に行ったら、池島信平さんが、
「あれだけ建てなおして、お金は返してもらわないのですか?」
と私にきいた。
「矢崎君がお金を払ってくれると思いますか?」
と私がきき返したら、
「そりゃ、そうだね」
と池島さんも笑い出してしまった。
私は『話の特集』の再建のために千九百十万円の大金を使い、一文も回収できなかったが、そんなに無駄金を使ったとは思っていない。というのは、投じたお金が投じたところから戻ってきこそしなかったが、私は雑誌の経営はどうやってやるものか、勉強をすることができたからである。
雑誌記者なら会社にお金を出してもらってそういうことを覚え込む。しかし、自分で損をして覚えるわけではないから、私ほどは真剣にはならないだろう。約二年間、なけなしのお金を注ぎ込んだおかげで、私は雑誌の経営は果樹園の経営によく似ていることに気づいた。
農業は鍬を入れてから収穫に至るまでの時間が長い。その代わりいったん収穫があるようになると、少々手入れを怠っても毎年のように果実がみのる。『話の特集』が今日まで生き延びているのも、そうした果樹園的性質のおかげと見てよいだろう。
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