温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第41回
皮膚病に効く名薬湯

私は子どもの頃から、冬になると乾燥肌に悩まされていました。
風呂から上がり、布団に入ると体中がかゆくて、
なかなか寝つけませんでした。
大人になってから仕事で温泉をめぐるようになり、
皮膚病に効くといわれる温泉に、いくつも入りましたが、
自分の肌に合う温泉には出合えずにいました。
しかし数年前、その温泉に出合ってからというもの、
ピタリと肌のかゆみが治まってしまったのです。

群馬県藤岡市下日野は、四方を深い森に包まれた山の中。
標高はさほど高くないのですが、
県道からはずれて山道に差しかかった途端、
ひんやりと空気が変わります。
渓流のせせらぐ音だけが山あいに響く川のほとりに、
和風の一軒宿、
猪ノ田(いのだ)温泉
「久惠屋(ひさえや)旅館」
がたたずんでいます。

猪ノ田温泉の歴史は古く、
明治初期には「皮膚病に効く」という評判が高く、
湯治場としてにぎわっていました。
宿には、『猪田鑛(鉱)泉ハ古来ヨリ猪田川ノ川邉(辺)ニ
湧出シ薬師ノ湯ト称ス』と記された
明治19(1886)年の分析表が残っています。
当時は源泉の湧き口に野天の湯舟があるだけでしたが、
硫化水素を含む独特の腐卵臭がすることから
「たまご湯」と呼ばれ地元の人々に親しまれていたといいます。

その後、大正時代になって旅館が建てられ
戦前までは大いに繁盛していましたが、戦後になり経営が悪化し、
昭和40年代には廃業してしまいました。
惜しむ声はあっても、しばらく湯は森の中で眠ったままでした。

「歴史と効能のある温泉を、どうしても復活させたかった」
と藤岡市内で牛乳販売業を営んでいた主人の深澤宣恵さんが、
昭和58(1983)年に周囲の反対を押し切って旅館を開業。
復活した伝説の湯は、ふたたび傷ややけど、
アトピー性皮膚炎などの皮膚病に効く名薬湯として
全国から噂を聞きつけた湯治客が訪れています。

宿では源泉を詰めたペットボトルの販売をしています。
私は毎年冬になると、この源泉を噴霧器で肌につけています。
おかげで今年の冬も、肌のかゆみに悩まされずにすみました。


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2012年4月18日(水)

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