温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第48回
秘湯の魅力は人にあり

榛名山西麓、旧倉渕村(現・高崎市)の国道406号を北上すると、
渓流沿いに源泉櫓(やぐら)と山小屋風の建物が見えてきます。
倉渕温泉「長寿の湯」
宿泊施設を備えた日帰り入浴温泉です。
ここに、きっぷがいい女将さんがいます。

川崎節子さんは旅館再建のため、
平成15年に東京から単身で群馬にやってきました。
その12年前のこと。
ボーリング会社を経営するご主人が、
「倉渕村に雪解けの早い場所がある。
薬師像もあるし、絶対に温泉が出る」と
東京から通いながら掘削をして、源泉を掘り当て、
念願の温泉旅館をオープンしました。

ところが経営を他人に任せていたため、乱脈経営が発覚。
やがてバブルが崩壊し、あわや廃業という窮地に
追い込まれてしまいました。
「私がやるしかなかったのよ。
だって温泉旅館は、お父さんの夢なんだもの。
温泉も旅館も絶対に手放したくなかった」

来た当初は
「東京の奥様に何ができる」と地元の人たちに
散々なことを言われたといいます。
それでも孤軍奮闘する姿を見て、
「いつか女将さんのやっていることが、必ず評判を呼ぶよ」
と応援してくれる人たちに支えられて、
今日まで湯と宿を守ってきました。

「冬はマイナス13度になるし、
相変わらず寒いのは苦手で、いまだに慣れないんだけど。
でも群馬の人は情が深いからね、ずいぶんと助けてもらった。
口は悪い人けどさ、心を割って付き合うと、
とことん面倒をみてくれるんだよね。
おかげで、私もすっかり上州人になっちゃった。ワッハハハ」

渓流をはさんだ宿の向かいに立つ源泉櫓の下には、お堂があり、
薬師如来像が祀られています。
約300年前に、湯の霊験著しいご利益に対して、
旅人たちが感謝を込めて安置した
「湯前(ゆぜん)薬師」だといわれています。
今も昔と変わらずに、旅人の安全と健康を守ってくれています。
でも私には、見知らぬ土地に一人でやって来て、
奮闘を続ける女将さんを見守っているように思えるのです。

「お客さんが
『女将さんにつかまるな』だって!私は話好きだからね」
そう言っては、いつも「ワッハハハ」と声高に笑うのです。

秘湯の魅力は、湯にあり、景観にあり、そして人にあり。
女将の人柄に魅せられて通ってくる常連客が、たくさんいます。
実は私も、その一人なのです。


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2012年5月12日(土)

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