前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第40回
黒装束の実習生

ある日、アラビア風の格好をした若い女性が
カウンターの向こう側に立ちました。
頭を黒いショールで包んでいて
顔と手以外のところも真っ黒い布で覆われていました。
お客として何回も来たことがある陽気な子でしたが、
今日はいつもと違って口を開く前に一瞬のためらいがありました。
実習生として店に二週間置いてくれないか、
という頼み事が有ったからでした。
ところがその実習の時期は私の旅行と重なっていたのです。
私がいないだけでも忙しいのに実習生がいたのでは一層大変です。

私がちょっと答えに詰まると
「私がスカーフを被ってるからダメなの?」
と早口でたたみ掛けるので
「これはなかなか引き受け手がないんだな」
と早合点しました。
デパートでは従業員の被り物が禁止なのですが、
それを無視して
スカーフを被った女性を首にして問題になっていました。
イスラム教の信者などでは
女性は外では髪の毛を見せてはいけないという決まりがあります。
1600年代を舞台にした本を読んでみると
ヨーロッパでも以前はそういう習慣も有ったようです。
それで
「そうではないけど、初めの一週間は私がいなくて忙しいから
あなたに教えてる暇が無いんです。それでもいいですか?」
と答えてしまいました。
その瞬間、イラク人のイスタブラックの実習先は決まりました。
お店の他の人達は面白がって喜びました。

イスタブラックは若奥さんで、
イラクからやって来たばかりの御主人と結婚したばかりでした。
髪はしっかりとショールで隠し、長袖の袖口も襟も詰まっています。
黒マントのような上着は靴まで届いていました。
私が旅行から帰ってくると皆と仲良しになってはしゃいでいました。
私が「名前がよく聞き取れないから紙に書いてください」と頼むと
「イスタブラック 十八歳」
と張り切った大きな字で年齢まで書きました。
私達(私とトリーナとフランス人ムリエル)は
張り切った様子が微笑ましくて笑ってしまいました。
それに、ムリエルは三十歳になったばかりですが、
歳のことを話題にするのは嫌いだったで余計おかしかったのです。
私は「ヒロ 五十五歳」とその下に続けて皆でまた大笑い。
ただし、イスタブラックには何がおかしいのかよく解りません。
ムリエルは歳を書かずに名前だけ。
トリーナは「私、平気だもんね」と言いながら
二十四歳と付け加えました。
私は年齢を隠すデンマーク人の女の人には会ったことがありません。


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2004年9月10日(金)

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