前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第101回
忘年会の羊

私達が共同経営をしていた頃、
クリスマス前の会社の食事会を
友人の中華料理店で開いたことが有りました。
予算を言って予約を入れると、
お店の主人の王さんはたいへん喜んでくれました。

12月の初めの寒い夜でした。
9人で一卓を囲むと
ふだんは鋭い目つきの王さんが、
ニコニコ顔で鍋を運んで着ました。
蓋を取るとたちまちプーンと漢方薬の匂いが辺りに充満しました。
王さんは
「これを飲むと元気になるよ。友達だからね、サービスだよ」
と言って
「今夜は気をつけろ。Nがウワーッと来るぞ」
N君の奥さんにつかみかかる仕草をしました。

それで「食は広州にあり」を読んでいた私は
“これが当帰敦鶏湯(敦は火偏)という奴かな?”と思いました。
そのスープは精力料理でもあるらしいです。
商売気無しに材料を張り込んで作ってくれたということでしょう。
でも、大サービスしてくれた薬膳の臭いが、
デンマーク人達の食欲を減退させないか心配になりました。
“薬の味がどうかな?”と気になって
私は「大変美味しい!」というところまではいきませんが、
皆は美味しそうに飲んでいます。
皆が食べる様子を見て胸を撫で下ろしました。

リンダなどは食べる手を休めて
「こんなおいしいスープがこの世にあったのか」
とビックリして周りを見渡しています。
予定外の珍味スープの後は、普通のお客には出さない
「特別料理メニュー」から選んで組み合わせたものです。
味付けもこの店の一番コックの奥さんのものです。
珍しいご馳走に、デンマーク人も日本人も皆満足して満腹して、
私はヘタクソな字で「羊踏破菜園」と書いて
王さんに御礼しました。

この美味しかったレストランは残念ながら今は有りません。
奥さんが中心になって料理をしていたのですが、
そろそろ楽をしたくなって
中国本土からコックを連れてきたのです。
ところがせっかく費用を払って来てもらったのに、
例によって仕事にも慣れてきた頃に引き抜きにあいました。
そして元の木阿弥になってしまいました。
そういうことが二度も続いて嫌になったんだそうで、
王さんは店を売り払ってしまいました。
残念です。
気を取り直して小さな店でも開いてくれれば
食べにいけるのですが・・・。

「羊踏破菜園」−
“ご馳走に感謝します”という意味だそうです。
(文庫本「食は広州に在り」 P.90“邱飯店のメニュー”より)


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2004年12月6日(月)

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